片野マンション30×号室に居住した50代の女性
松永らの逮捕はそれから約3年9カ月後。逮捕から捜査の終結までには、さらに1年3カ月以上を費やしている。片野マンション30×号室は、福岡県警が捜査終結まで証拠保全のために借り上げていたが、その後は一般に貸し出され、短期間だけ住人がいたり、長らく空き室となったりしていた。
だが19年5月以降、いまに至るまで、同室にはA子さんという50代の女性がずっと居住している。彼女は言う。
「もともと個人的に犬や猫の保護活動をしていたので、ペット可の物件を探していたんです。いま猫と犬を飼っているんですけど、猫と犬のどちらかだけというところは多いけど、どちらもOKというのは少ない。ここはどちらも大丈夫だったので、入居を決めたというのがきっかけです。家賃については、めちゃくちゃ安くなっているわけではありません。相場よりはやや安いくらいです」
“奇妙な出来事”が起こっても「生きている人間の方が怖い」
この部屋で過去に起きた事件については、不動産業者から事前に説明を受け、A子さん本人も事件については知っていたと語る。
「一応事前に、『殺人事件が起きた部屋です』との説明は受けていました。あと、事件についての本も買って読んでいたので、この部屋でどういうことが起きたのかは知っています。ただ、私のなかでは死んだ人間よりも“生きている人間の方が怖い”という思いがあるんですね。だからさほど気にはならなかった」
入居した段階で玄関内の壁にはお札が貼られており、浴室の窓の枠には、一定以上の開閉を妨げるストッパーが取り付けられていたであろう、穴の痕跡が残るなどしていた。
「でも、とくになにか嫌な感じとか、そういうものはありませんでした。それでいうなら、前に住んだことのある部屋の方が、事故物件ではないのに不穏な雰囲気がありましたから。とはいえ、知り合いにあの事件の部屋に住んでいると話すと、『なんでそんなところに!』や『あそこはやめた方がいい』ということは言われますね。気にはしませんけど」
実際に起きた“奇妙な出来事”は数回しかないそうだ。
「部屋を暗くしてホラー映画を見ていたら、いきなりスマホのSiri(アップル社のバーチャルアシスタント)が、『なにを言ってるのかわかりません』と反応したりはしました。あと、入居して半年くらいはよく、誰もいないのにいきなり玄関のセンサーライトが点いたりしていたんですね。けどそれが何度かあってイラッとしたから、『うざい!』って怒鳴ったら、それからはなくなりました」
A子さんはそう口にすると、屈託のない笑顔を見せる。この事件を長く取材する私も、それから玄関の内部を見せてもらったが、とくに不穏を感じるようなことはなかった。
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この凶悪事件の詳細は、発覚の2日後から20年にわたって取材を続けてきたノンフィクションライターの小野一光氏による『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)にまとめられています。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。



