震災後、順子さんが元之さんの散髪をするシーンがある。映画のチラシにも「愛をこめて。」のコピーとともに使われている。そのハサミは散髪用ではなく、普通の文具用だ。散髪後は元之さん自身が同じハサミで伸びた髭を切る。こうしたさりげないカットがいい味を出している。五百旗頭監督は当初から順子さんが鍵になると直感し、意識して姿を狙っていたそうだ。初めは撮影を断った順子さんだが、娘に「お父さんとネコちゃんたちの横をちょこちょこと歩くお母さんがいた方がいいよ」と言われ気持ちが変わったという。
最後に投げ込まれる“爆弾”
昨年5月、石川テレビで番組が放送されると大きな反響があり、多数の方から滝井さんの元に支援金が寄せられた。中には、石川県では知らぬ者のない「八幡のすしべん」という飲食店グループ企業の会長夫妻が自ら滝井さんの自宅を訪れカンパを渡したそうだ。この会社の全店舗に映画のポスターとチラシが置いてあるという。
震災後、復興へ向けて町長や議員たちの振る舞いも変わったことが映画で描かれる。これで“能登デモクラシー”も変わるのか、という温かな雰囲気が漂ったところで、終盤に五百旗頭監督の“爆弾”が投げ込まれる。その内容は映画をご覧いただくとして、“爆弾”を突き付けられた相手が、何だか安倍元首相の姿に似ているように感じられた。あくまで外見上のことだが。
“能登デモクラシー”は能登だけのことではない。全国至る所の地方政治にあるし、国にだってある。首相の妻が名誉校長を務める学校に国有地を値引きし、その陰で公文書の改ざんや廃棄をする。真相をあいまいにして幕引きを図り、国会で与党が追認する。町長が理事長の法人に補助金を投入し、それを町議会で追認するのと、どこが違うだろう?
僕らは“日本デモクラシー”の国に生きている。この映画を他人事とせず観てほしい。
『能登デモクラシー』
監督:五百旗頭幸男/2025年/日本/101分/配給:東風/©石川テレビ放送/公開中

