町長の提案に誰も反対することなく、粛々と全会一致で議案を可決する。たとえそれが町長お手盛りの箱もの案件でも……。そんなおかしな、しかし日本のどこにでもありそうな「民主主義の実態」に鋭く切り込んだドキュメンタリーが話題だ。

©石川テレビ放送

◆◆◆

これでは“Not”デモクラシー?!

「賛成の方は起立願います……全員一致であります。原案通り可決することに決定いたします」

ADVERTISEMENT

 石川県能登地方の穴水町(あなみずまち)。町長の提案に反対する議員はいない。町議会は全会一致で議案を可決する。この町は昔からこうして回ってきた。誰も異論を唱えない。これが安定の“能登デモクラシー(民主主義)”だ。

 でも、ちょっと違うんじゃないの? そんなことやってるうちに人口は7000人を割り込み、若者も高齢者も減りゆく人口減少の最終段階に入ってしまった。これは“能登(のと)”ではなく“Not”デモクラシーじゃないか? そんな問題意識が映画のタイトルに込められている。作品の最大の魅力は、普段ほとんど報じられることのない小さな町の政治に焦点を当て、そこから日本全体に共通する課題を浮き彫りにしていることだ。最後には思いがけないどんでん返しも用意されている。

唯一の地元紙はすべて手書きの手作り新聞

 この町で堂々と“異論”を掲げる町内唯一の地元紙が新聞「 紡ぐ」だ。これが物語の主軸となる。見出しには町の未来を憂うる言葉が並ぶ。

「穴水町の将来はどうなる!?」

「過疎化とは人がいなくなるだけ?」

「政治とは“光の当たらないところに光を当てる”ことが原点」

©石川テレビ放送

 作っているのは滝井元之さん。元中学教師で、穴水町でも極端に過疎の進んだ3世帯だけの“限界集落”に妻の順子さんと猫7匹と暮らす。新聞「紡ぐ」を始めたのは5年前。取材から執筆、発行まで一人で手掛け、毎月A4で1枚を発行。すべて手書きだ。筆先から魂を込めるように一文字ずつ丹念に綴る姿をカメラが捉える。何だかかつての大学の“立て看”をほうふつとさせるが、滝井さんの味わいある筆致が紙面を柔らげる。見出しの上に強調の赤い線を定規で引くのも手作り感満載だ。究極のオールドメディアだが、手書きゆえの説得力と信頼感に満ちている。当初の180部発行が今や500部に伸びたのは、滝井さんの忖度ない言論が町内で「バズった」ということだろう。