在宅緩和ケア医師の萬田緑平先生の診療所は、いつも笑い声が絶えない。末期がんで余命宣告された患者は、住み慣れた我が家で「生き抜く」ことを選択し、旅行を楽しんだり、愛するペットとともに暮らす。趣味やお酒を満喫する。最期まで自分らしく生きる患者と前向きに歩きはじめる家族の姿を通して、“緩和ケアという希望”を描いたドキュメンタリーが上映中だ。

©まほろばスタジオ

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「あと4~5年生きる? 欲張りだねぇ」

「とにかく笑えれば 最後に笑えれば ハハハと笑えれば」 

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 ウルフルズがエンディング・テーマで歌う、まさにその通りの作品だ。なにせ主だった登場人物がことごとく亡くなっていく。なのに誰もが最期に笑顔を見せる。だから『ハッピー☆エンド』なんだな。

 登場するのは、末期がんと診断された患者たちと家族だ。がんの終末期医療と言えば、抗がん剤で髪は抜け体はやせ細り、病院のベッドでチューブやコードをつながれて身動きもままならず、意識もうろうとしたまま死を迎える。そんな姿を思い浮かべがちだが、そういう場面は一切登場しない。主治医がそのような治療方針を取っていないからだ。

 萬田緑平先生は元々大学病院の外科医として17年間、数多くのがん患者の診療に携わってきた。その過程で患者の意思より延命を優先する治療に疑問を抱くようになり、外科医として脂の乗り切った時期に病院を退職。在宅緩和ケアに取り組むようになる。それだけで変わり者とわかる。どれくらい変わってるかって、余命宣告を受けた患者さんの目の前でこんな風に話しかけている。

「あと何年生きるの? あと4~5年生きる? 欲張りだねぇ」

萬田緑平先生 ©まほろばスタジオ

 これを聞いて患者さんも家族も笑っているのだから、長年の信頼関係のなせる業だろう。萬田先生は語る。

「みんな緩和ケアって最期のところだと思ってるから」

 そうではない。萬田診療所には「がん患者さんが自宅で辛くなく生きるお手伝いをする」と掲げてある。在宅緩和ケアとは、患者さんの身体と心の苦痛を和らげ、自宅で自分らしい生活を送れるようにする“希望”の医療なのだ。だから死をタブーにしない。先生曰く、「余命は医者が決めるものじゃない」のだ。