医療用麻薬を処方
往診では山吹色のTシャツ1枚で、山吹色の車を運転して通う。目に優しく気持ちが明るくなるような色だ。白衣は着ない。医者の威圧感を減らして家族のように接するためだという。往診はほぼ週1回。他の日は看護師や介護士が訪れてケアにあたる。これができるのは介護保険を利用しているからだ。
介護保険といえば制度導入の議論が始まった30年ほど前、老人病院で患者を動けないようベッドに縛り付ける「抑制」の現場をNHKスペシャルの取材で撮影したことがある。患者はがんではなく認知症だったが、「人生の最期をこうは迎えたくない」と強く感じた。その対極にあるのが在宅緩和ケアで、その実現に介護保険が役立っているのだとわかる。
自宅で穏やかに暮らそうとしても、がんの激しい苦痛があっては叶わない。その苦痛を和らげるため、萬田先生は医療用麻薬を処方している。日本での使用はまだまだ少ないという。
「医療用麻薬って最期に使う恐ろしい薬じゃなくって、とにかく痛くなければ元気でいられる。元気でいられれば長生きできる。そういうすっごくいい薬なんです」
笑顔を引き出すことがケアの中心
映画に登場する患者さんたちは、慣れ親しんだ自宅で家族と思うがままに暮らしている。病気があるからまったく自由に、とはいかないが、がんを感じさせない生き生きした姿を見せる。好みの芋焼酎を呑んだり、家族で3泊4日の旅行に出かけたり、ゴルフを楽しんだり。中には競艇場に通う人も。萬田先生のポリシーは「患者本人が好きなように」。本人が望むことを全力でサポートする。
「笑顔を引き出すことが僕のケアの中心です。退院して家に帰ったら“身体にいいこと”より“心にいいこと”を優先して考えましょう。旅行もお酒もゴルフもみんなOK。患者さんが幸せになっているかがすべてです。望みをすべて叶えちゃいましょう!」
この映画の魅力の一つに、イラストやアニメーションが効果的に使われていることもあげられる。例えば、在宅緩和ケアが目指すがん患者さんの生き方を、萬田先生が飛行機の着陸に例えて語るシーン。かわいい飛行機のイラストが登場し、少しずつ穏やかにソフトランディングしてニッコリ。一方、延命治療については、弱っていく飛行機を無理やりヘリコプターで吊り上げる姿として描かれる。飛ぶ力を失うにつれヘリコプターの数を増やすが、最後には支えきれなくなりドスンと墜落してしまう。言葉だけではイメージしにくい話がこれですんなり理解できる。

