20年以上介護を続けた認知症の母親が、ようやく施設へ入所した。一息つけると思ったのも束の間、今度は自分の乳がんが発覚し、闘病生活がスタートする――。

介護のうしろから「がん」が来た!』(集英社文庫)は、作家・篠田節子さんのそんな実体験を綴ったエッセイだ。ここでは同書より手術のための「入院準備」について書いた部分を抜粋して紹介。介護者ががんに罹患するケースの大変さとは……。(全4回の2回目/続きを読む

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1泊3万! 人生初のセレブ入院

 入院先については聖路加国際病院を選んだ。医療水準が同じなら、そして自宅からの所要時間も同じくらいなら、一生に一度のセレブ入院も悪くない。運悪く再発し、最終的に治療の見込みなし、とされたとき、緩和ケア病棟のある病院で順調にあの世に送ってほしいという気持ちもあった。

 週明け早々、乳腺クリニックに電話をして「聖路加」を希望する旨を伝えると、看護師さんから慎重な口調で応答があった。

「あの、聖路加さん、全個室ですから、差額ベッド代がお高いですよ」

 なんの。どうせ一生に一度、生まれて初めての個室だ。パソコンを持ち込んで仕事をすれば、1泊1万や2万。

「3万円以上ですかね。今回だけでなく、その後もそちらの病院にかかることなども考慮しますと……」

 1泊3万。絶句。

 確かに抗がん剤治療や転移で再手術、緩和ケアなどということになったら……。1カ月で100万。しかも辛い体調であれば病室で仕事などできない。ノーテンキな目論見は最初から成立しない。

 だが、「個室にしとけ」と夫。

「僕なんか隣のベッドのじいさんの夜間譫妄で寝るどころじゃなかったから」

 確かに。

 人生、初のセレブ入院。公立病院の大部屋しか知らない者にとっては、いろいろな発見があるかもしれない。

 度胸を決めて紹介状をお願いする。

老健に入っている母の洗濯物はどうする?

 入院先は決まったが、いつから、どのくらいの期間か、は未定だ。

 とりあえず母が入っている老健(介護老人保健施設)に連絡を入れ担当者に事情を話す。

 それまで、週2回、施設に通い、面会のついでに洗濯物を受け取り、洗ったり繕ったりして届けるということをしていたが、これからしばらくの間は施設のクリーニングサービスをお願いするつもりだった。だが、翌月分の申し込み期限に間に合わず、4月はそちらのサービスが使えないことが判明。