2022年に長編デビュー作『正義迴廊』で大ヒットを飛ばしたホー・チェクティン監督は、 香港映画の「新しい波」を代表する若手監督の一人。中国資本の大作指向と離れて、予算は少なくても香港ローカルに根差したテーマと繊細な演出で魅せる作品群―「新しい波」の若い監督たちの連帯や今後の香港映画について、チェクティン監督に聞いた。

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他国での制作を模索する香港の若い映画作家たち

 私はホー・チェクティン。これまでに2本の長編映画を監督した。香港演芸学院で映画監督を専攻し、2012年に卒業。『星くずの片隅で』(22年)のラム・サム監督とは同期で、彼の卒業制作にも参加した。

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 小さい頃から映画館によく通い、ジャッキー・チェンやチョウ・ユンファの映画を観ていた。ツイ・ハークの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』やスティーヴン・スピルバーグの『ジュラシック・パーク』などの作品が特に好きで、映画監督という職業を意識するようになった。

 中学生になると、VCDを買い込んで映画を観るようになった。勉強は苦手だったが、モーニングショーの映画が安かったこともあり、よく映画館に通った。映画に関する本を読むようになり、学歴がなくても映画監督になれることを知った。例えば、フルーツ・チャンやダンテ・ラムは高学歴ではないが、立派な映画監督になっている。その事実に興奮し、「勉強しなくてもいい職業がある!」と気づいた瞬間、エリート職、例えば医者や弁護士になる道を完全に除外した。英語も苦手で、スポーツも得意ではなかったので、映画だけが自分の進むべき道だと確信した。

 演芸学院では映画を学びながら充実した4年間を過ごし、卒業後はスクリプターや助監督として経験を積んだ。ダンテ・ラム監督の演出部に加わり、『激戦 ハート・オブ・ファイト』(13年)や『疾風スプリンター』(15年)などの大作に参加し、多くのことを学んだ。その後、香港テレビの『獅子山下』シリーズでディレクターを務め、プロデューサーのフィリップ・ユン監督と出会った。この縁で彼の会社に入り、17年頃から、彼の『風再起時』(22年・香港映画祭で上映)という映画の企画・脚本・ロケハン・撮影・仕上げなど全般に関わることになった。