エリックの『香港ファミリー』はすでに香港で上映を終えていたが、『正義迴廊』と『星くずの片隅で』が公開中であり、カー・シンフォン監督の『流水落花』(22年・OAFFで上映)、アナスタシア・ツァン監督の『燈火は消えず』(22年)、ラウ・コックルイ監督の『白日青春―生きてこそ―』(22年)、ニック・チェク監督の『年少日記』(23年・東京国際映画祭で上映)が公開予定だった。いずれも新人監督の長編デビュー作であり、デビュー作が失敗すれば、次のチャンスはなかなか巡ってこない。だからこそ、互いに助け合う必要があると感じた。
コロナ禍が落ち着いた後、映画業界は活況を呈するかに見えたが……
ラム・サムはイギリスに移住し、香港にはいなかったが、代わりに僕たちが彼の映画の舞台挨拶やトークイベントに参加した。6人の新人監督が集まり、利害関係を気にせず、相乗効果を狙って互いの作品を宣伝し合った。この互助の動きと新たな連帯がマスコミと映画評論家に好意的に受け止められ、「香港の新しい潮流」と称された。
しかし、コロナ禍が完全に落ち着いた後、映画業界全体の状況はむしろ悪化した。観客は海外旅行に出かけるようになり、ライブやコンサートも増え、娯楽の選択肢が増えた。また、経済状況の悪化により、人々は娯楽にお金を使うことに慎重になった。23年以降、映画館の経営はますます厳しくなった。例えば、24年に1億香港ドル(約20億円)を超える興行収入を記録した香港映画はわずか2本のみ、それ以外の作品は数百万ドル規模のものばかりだった。興行収入が100万ドル(約2000万円)に届かない映画も珍しくなくなった。そして、今年2025年の香港旧正月映画は史上最低の成績を記録し、業界全体に危機感が広がっている。
経済的な問題だけでなく、撮影できる題材もどんどん制限されている。香港にこだわらず、他国での撮影も模索している。僕の次回作は台湾での撮影になりそうだ。台湾の製作費は香港より安く、ロケーションも新鮮で、政府の助成金も活用できる。特に、題材の自由度があることが魅力だ。香港では警察を扱った犯罪映画は撮りにくいが、台湾なら可能性がある。実は台湾映画として中国本土で公開することもでき、検閲はあるものの、公開の可能性は残る。最近、香港人映画監督が台湾で撮ったバイオレンス映画『我、邪で邪を制す』(23年・Netflixで配信)が中国本土でも大ヒットしたことに勇気づけられた。
映画業界は現在厳しい状況にあるが、チャンスがあるなら全力で最高の映画を作るしかない。
四十四にして死屍死す
《ストーリー》
香港の高層マンションの玄関先で裸の男性の死体が発見された。自分たちの部屋が“事故物件”となり、資産価値が暴落することを恐れた住民たちは、死体の押し付け合いを始めるが――。現代の社会問題を背景にした軽やかなコメディ。大阪アジアン映画祭2023で「ABCテレビ賞」を受賞。
2023年/香港/119分/未公開/©2023 One Cool Film Production Limited,852 Films Limited,Icon Group Limited,the Government of the Hong Kong Special Administrative Region All Rights Reserved
ホー・チェクティン 1987年香港生まれ。香港演芸学院を経て監督デビュー。初長編『正義迴廊』は香港電影金像奨新人監督賞を受賞。興行成績を次々と塗り替える大ヒットとなった。