30歳で脚本家・三谷幸喜と結婚

『やっぱり猫が好き』で小林は、もたいまさこと室井滋を姉役に3人姉妹の末っ子を演じた。深夜番組だったので予算は限られ、NGが出ても撮り直しはせずそのまま、セリフが飛んだら、アドリブでどうにか乗り切るということもしばしばだったらしい。出演者からすれば大変だったが、そんな生っぽさが逆にウケたのだろう。

ドラマ『やっぱり猫が好き』(1988年)出演時の小林聡美(上段左)。上段右はもたいまさこ、下段は室井滋 ©文藝春秋

 このドラマには脚本家の一人として三谷幸喜が参加していた。同作が馴れ初めとなり、小林はのち1995年に30歳で三谷と結婚、約16年間ともに暮らした。結婚会見では取材陣から「仲よく腕を組んでください」と注文され、両人がそれぞれ腕組みしてカメラに収まっていたのを思い出す。

1995年10月18日、結婚会見をする三谷幸喜(当時34歳)と小林聡美(当時30歳)

『やっぱり猫が好き』で共演したもたいまさことの関係は三谷以上に長い。出会ったのは小林が19歳、もたいが32歳のとき、バラエティ番組『OH!たけし』でだった。その後、もたいが小林の所属事務所に入ってきたこともあり、しだいに心を許し合える仲になっていった。

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 ただ、『やっぱり猫が好き』以降、作品で共演することはあまりなかった。本人たちに言わせると、親戚と共演しているようで恥ずかしかったからだという。それが映画『かもめ食堂』(2006年)で久々に本格的に共演し、最初こそ恥ずかしかったが、互いにがっつり芝居することで払拭する。

映画『かもめ食堂』(2006年)

主演ドラマ『すいか』に集まる熱烈な支持

 この間、小林は主演ドラマ『すいか』(2003年)あたりから新たな境地を拓きつつあった。『すいか』で彼女が演じたのは、早川基子という信用金庫に勤める独身社員だ。基子は34歳になるまでやるべきことを何もせず、そのまま来てしまったと焦りを感じていた。そんな時期、独身女性ばかりが住む古びたアパートを見つけ、やがて過保護な母と暮らしていた実家から移り住むことになる。

 それまで、しっかり者というイメージの役柄が多かった小林にとって、自分の殻に閉じこもりがちな基子はまったく演じたことのなかった役だった。それだけに《台本を読んでいるとイライラしてしまうことも(笑)。『なんで、おまえはここでそんなにうじうじしてるんじゃ!』って。だから、毎回応援する気持ちでしたよ。『おい、頑張れよ、基子』って》と語る(『別冊カドカワ 総力特集 大塚愛』カドカワムックno.278、2008年12月)。

小林聡美の主演ドラマ『すいか』。左は共演のともさかりえ(2003年/日テレ公式サイトより)

 だが、『すいか』の劇中で、ゆったりと流れる時間のなか、基子と周囲の人たちが時に助け合いながら、それぞれ少しずつ成長していくさまは、視聴率こそ伸びなかったものの一部で熱烈な支持を集め、いまなお語り継がれている。同作は、その後の『かもめ食堂』や『めがね』(2007年)などといった、小林演じる主人公の周りにさまざまな個性の人物が集まり、ハートウォーミングな物語を繰り広げる一連の作品の原点とも位置づけられる。

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