「ただのマッサージだったのに、久しぶりに女性扱いされた気がしました。その肯定感で幸福と感動を覚えたのです」
いまやブームを牽引する『秘密基地』や『萬天堂』の後に続き2018年4月、デリヘルと同じく派遣型風俗店の届け出をして、東京に『SPA White』の1号店をつくった。女風が急増したのはこのころからだ。
時を同じくして松坂桃李主演の映画『娼年』が公開された。「娼夫」として生きる男を主人公に性の極限を描いたもので、男を買った女性たちは、戸惑いながらもやがて自分自身を解放し快楽に溺れていく。
「女性も欲求を剥き出しにしてもいい。そう教えてくれるような映画でした」
あす香さんはこの映画がブームを後押ししたと語った。
映画にも描かれたジェンダー観の変化、それに伴走するSNSなどによる情報発信の普及――そして女風の“デリヘル化”。これにより利用女性のプライベートは確保され、女性が性的欲求を解放しやすくなったのだ。
ここに「女風は低予算で開業できる」というもう1つの事実も普及を後押しした。あす香さんが『SPA White』を開業した時は、わずか50万円の自己資金で始めたという。デリヘルが最低200万円、それより安く開業可能なメンエス(メンズエステの略)であっても100万円かかる状況からすれば、その安さが際立つはずだ。
「男性向け風俗と比べて市場規模が3分の1以下で、儲けは少ない」
『SPA White』の仕組みはシンプルだ。女性客が利用したい日時と場所、指名する男性セラピストをメールで伝える。男性セラピストの空き状況を確認し、「OK」の返信をする。デリヘルは出勤管理が必要だが、『SPA White』にはフリーで遊ぶという概念はなく完全予約制のため、パソコンひとつで事足りるという。
プレイルームや待機場がいらないことが、コスト削減につながる。広告宣伝費にしても、女風は数万円ほどのケースが多いという。
とはいえ女風は始めやすい一方で、「男性向け風俗と比べて市場規模が3分の1以下で、儲けは少ない」とあす香さんは話す。いったい、なぜ?
需要を読み解くカギが男性と女性の生殖器の違いにあるとわかったのは、さらに話を聞いてからだ。男性の精子は1日に1億2000個製造される。対して28日周期で排卵される女性の卵子は、もともと数が決まっていて減るいっぽうだ。
こうした性欲構造の違いは、フリーや団体客を受け入れて数を稼ぐことができないことにつながる。環境が整備されれば女性も刹那的な快楽に溺れるとばかり思っていたが、女風では短期間でのリピートは少なく、早くても2週間後だと聞いてそのビジネス構造が根本的に違うのだと気づかされた。

