「ああ、もう電車がないよ。今夜は留まって(※原文ママ)いかなきゃだめだよ」
このとき、朝はびっくりして「ああ人さらいにさらわれてしまったのだ」と思い込み、タクシーで帰るお金も才覚もなく、電話もなかったことで「もうだめだと思ってしまった」としつつ、のんきな調子でこう振り返る。
「パパに、そのときの気持ちのほんとうのところを聞いておけばよかったと思います。でも自分のバカさかげんが恥ずかしく、口惜しさもあり、このときのことについてはパパと一度も語り合ったことがありませんでしたね」
この記述をうのみにするなら、守綱という人物をはっきり認識していなかったときにお茶に誘われ、その流れで部屋に行き、電車がなくなり、そのまま帰らなかったということだ。これだけでも朝ドラヒロインの史実としては相当ぶっとんでいるが、これは一夜の過ちでは終わらなかった。
守綱は「きみはぼくの奥さんになるしかない」と朝を閉じ込めた
守綱は翌日、「もう学校へも行けないし、伯父さんの家にも帰れないよ。きみはぼくの奥さんになるしかないよ」と言い、「これから練習があるから出かけなきゃいけないけど、二時間半ぐらいしたら帰ってくるからね。絶対部屋の外に出ちゃだめだよ」と言って、外から部屋のカギをかけて仕事に行ったという。
そして、お昼になるとパンと牛乳を買って走って帰り、一緒に食べ、再びカギをかけてそそくさと出て行く。これが毎日繰り返されたそうなのだ。これが事実なら「人さらい」「略奪」という表現は全く大げさではないし、事件だし、犯罪じゃないかという気もするが……。
当然ながら、朝が突然行方不明になったことで朝の下宿先の伯父夫婦は驚き、伯父たちから知らせを受けた朝の兄や北海道の両親も大騒ぎになった。しかし、当の本人は、知らない男の部屋に泊まったことで、伯母になんと言い訳したらよいか、どんなに叱られるかが怖くて帰れず、学校にも行けず、守綱の部屋で過ごすことになったようだ。