田代良徳は元お相撲さんである。玉ノ井部屋に所属し、しこ名は東桜山。幕下7枚目まで番付を上げたが、関取にはなれなかった。

 2007年の秋場所で引退。その後はスーパーの店長を経験するなど紆余曲折を経て、ファッション誌のモデルやインドや中国の人気映画に俳優として抜擢されるなど、その活躍の場を広げてきた。波乱万丈の人生を明かした『SUMOOOO!!』より一部を抜粋。田代が実際に経験したハリウッドでの“ありえない待遇”とは?(全3回の1回目/#2に続く)

田代良徳さん ©文藝春秋

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元お相撲さんの数奇な人生

 田代はお相撲さんだ。いや、もうとっくに引退しているから元お相撲さんになる。

 現役時代は特に有名な力士ではなかった。番付は幕下7枚目が最高。大銀杏を結ったり、化粧まわしをつけたり、NHKの地上波で取組が放送されるような地位には届かず9年間の現役生活を終えた。つまり大相撲の世界では大きな成功を収めることができなかった人間だった。田代のしこ名である東桜山の名を覚えているのは、熱心な相撲ファンでもなかなかいないだろう。

 やや彫りの深い四角い顔立ちで、太い筆でさっと引いたようなたくましい眉毛、何よりもがっしりとしてたくましいアゴが目立つ。映画『トイ・ストーリー』に出てくる宇宙飛行士のキャラクターによく似ていた。

 引退してから髪の毛は薄くなってきていたものの、生まれついての体の大きさは変わらず身長188センチ、体重はなぜか現役の時よりも増えて180キロ近くあった。そのがたいのよさを生かして、引退後にトヨタやNTTドコモなどの広告に力士役で出演していた。

得体の知れないメッセージ

 そんな田代のインスタに得体の知れないメッセージが届いたのは2019年12月のこと。パリにあるキャスティング会社のスタッフを名乗る人物からだった。

「ヨーロッパに住んでいるお相撲さんはいますか?」

 田代はすぐに返信した。

「ヨーロッパにはいないと思います。何だったら日本から行きましょうか?」

 やり取りを重ねていくと、どうやらドイツで撮影する映画に出演できる力士を探しているらしい。フランスとかイタリアならイメージは湧くけど、ドイツ映画ってどんなのだろうかと田代は思った。なかなか全容が見えないまま、出演交渉は順調に進んでいく。しばらくすると不意にメールの中に「JW4」というワードが入ってくるようになった。