JW4? まさか……『ジョン・ウィック4』じゃないよな。
そう思いつつも、すぐには聞けなかった。
こういうのはだいたい下手にがっつくとやぶ蛇。こちらがタイトルを突き止めたとわかるや「この話はなかったことに……」などと言われるのがオチで、そうなったら悔やんでも悔やみきれない。なにせ相手は、あのハリウッドかもしれないのだ。
内心、大いに期待を膨らませつつ、慎重の上に慎重を期し、話がほぼまとまったと言える段階になってからついに切り出した。
「あのー、『ジョン・ウィック』なんですか?」
「YES」
急に背筋がぴんと伸びた。ドイツ映画ではなかった。ハリウッドだった。
それから時が過ぎ、名もなき元お相撲さんは今まさに『ジョン・ウィック』の撮影現場に足を踏み入れようとしていた。ギャラリーじゃない。出演者としてだ。
「ナイスヘア!」
視線の先に、ブロックで組み立てた宇宙船のような銀色の建物が見えてきた。車はそのまま田代専用のトレーラーハウスに横づけされた。大きなトレーラーハウスが一人1台。それがハリウッドのスケール感だった。
部屋の中には衣装となる着物が吊るされていた。ドイツに来て最初の頃に一度衣装合わせをしただけなのに、田代のサイズに合わせて完璧に仕立てられている。作品の世界観に合わせたような黒っぽい生地に、鎖帷子のような柄が細かく入っていて、着ただけで強くなったような気がした。博多帯も田代が日本から持参したものではなく、ここで誂えられたものが置いてあった。ドイツで博多帯が用意できるものなのかと不思議に思ったが、締めてみるとまったく違和感なくフィットした。
トレーラーハウスは巨漢の田代でも十分な広さがあるが、キアヌや真田、ドニー・イェンのようなメインキャスト用はさらにどデカく、隊列の一番奥にどどんと鎮座している。その近くにはメイク室として用意されたトレーラーがあり、身支度を整えた田代は車に乗ってそちらに向かった。
「いつこっちに来たの?」
メイクさんが尋ねてくる。
「4週間前です」