1名は東京拘置所内で判明した胃がんで亡くなった

 冤罪事件に巻き込まれた社長らは332日間勾留された。このうち1名は東京拘置所内で判明した胃がんで亡くなった。大川原化工機の元顧問であった相嶋静夫さん(享年72)は無実であるにもかかわらず、逮捕・勾留され、がんと診断されても迅速に治療を受けることができなかった。保釈請求も認められず、被告の立場のままこの世を去った。否認したり黙秘したりする容疑者や被告の保釈が認められない「人質司法」の犠牲者である。

 相嶋さんの遺族らが真実を明らかにするために起こしたのが、国と東京都を相手取った裁判だ。提訴からすでに4年が経過しようとしているが、これまで警視庁と検察庁は関係者への謝罪をしていない。ニュースを追いつつギョッとするばかりだった。

 ここで考えてみよう。私たちはなぜニュースを見るのか? いろんな理由があるだろうが、理不尽な目に遭っている人や、困っている人の存在を知るためだと私は考える。その理不尽はもしかしたら、違うところで自分を襲うかもしれないからだ。それでいうと大川原化工機冤罪事件は誠実に暮らしていても、突然理不尽に巻き込まれるという恐怖をまざまざと感じさせたのである。 

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 ではなぜ大川原化工機は狙われたのか?

 毎日新聞の「追跡 公安捜査」を読んで驚いたのは、大川原化工機が狙われた理由について「警察OBを受け入れていないから」と話す捜査関係者がいたことだ。捜査を指揮した係長(警部)が「大企業だと警察OBがいる。会社が小さすぎると輸出自体をあまりやっていない。100人ぐらいの中小企業を狙うんだ」と日ごろから部下に言っていたという。こんな理不尽があるだろうか?

 さらに捜査をさかのぼると、2017年春にあった民間企業の輸出管理担当者向けの講習会にたどりつくという。この講習会に捜査員もわざわざ参加し、大川原化工機がリーディングカンパニーだった「噴霧乾燥器」が13年から国内で輸出規制の対象になったことを知った。その結果、「新しくできた規制での立件第1号は注目されるので調べることにした」(捜査関係者)のである。

 まるで警察の「ネタさがし」のためにも思えるではないか。実際、ある捜査関係者は毎日新聞・遠藤記者にこう述べている。