「外事部門を増強するためのいけにえにされた」との声も

「『火のないところに煙は立たぬ』ということわざがあるが、大川原には火も煙も立っていなかった。我々が火を付けに行っただけだ」(『追跡 公安捜査』より)

 こうして冤罪をでっち上げられた社長ら3人は長期拘留され、1人は亡くなったのである。ひどすぎる。

 一方で「あの会社は、外事部門を増強するためのいけにえにされた」と述べる関係者もいた。「これからは経済安保、外事警察が非常に重要だった」という理由で大川原化工機がいけにえにされたという説明だ。公安警察は本来、国家や秩序を守るため、我々の生活を守るために存在しているはずなのに、誰のために仕事をしているのかと思う。自分たちの手柄とか、出世のためにやっているのだろうか。事件では起訴取り消しの直後、公安部外事1課が捜査員に検証アンケートを実施したが、廃棄されたことも明らかになった。

ADVERTISEMENT

「追跡 公安捜査」では大川原化工機冤罪事件をあの未解決事件と共に考えている。1995年の「国松孝次・警察庁長官狙撃事件」だ。狙撃事件を捜査した公安は最後まで「やったのはオウム」とこだわり続けたという。見立てを一度決めたら、途中で変えることはなく、不利な証拠を排除しながら立件に向けて突き進む。同じことが大川原化工機冤罪事件でも起きたと遠藤記者は指摘する。

 私が「理不尽」だと思ったことをもう一つ書いておこう。それはメディアの報道についてである。『追跡 公安捜査』では世の中の人にもっと大川原化工機事件を知ってもらうべく、さまざまな立場の人に事件の感想を尋ねている。私も遠藤記者にインタビューされたのだが(2月)、取材中にはこんな質問もあった。

「大川原化工機事件を熱心に報道しているのは、毎日新聞とNHKスペシャルぐらいしかありません。これについてどう思いますか?」

 言われてみれば確かにそうだ。「なぜですか?」と私は逆に質問してみた。すると「自分は警視庁を担当したことはなく、NHKではドキュメンタリー作品を制作しているディレクターがメインで取材をしていると聞いています」と遠藤記者は答えた。つまりメディアによっては警察との関係を重視したところもあるのでは? と。