この王の一撃で阪神ベンチは小山の降板を決める。そうしてマウンドに送り出されたのが、“打倒巨人”“打倒長嶋”に燃えて関西大学から阪神入りしてきたルーキーの村山実だったのである。その村山の力投もあり終盤の試合は膠着したまま4対4の同点で、9回裏の巨人の攻撃を迎える事になる。
「来た球を無心で打った」
この頃、両陛下が観戦するロイヤルボックス周辺はにわかに慌ただしくなっていた。
実は警備上の問題もあり、両陛下の退場時間は、試合の展開に関わらず9時15分と決められていた。すでにセンターバックスクリーン上の大時計は9時を回っている。勝負の行方が見えないままに、両陛下退場の時間は刻一刻と迫ってきていたのである。
その中で9回裏の先頭打者として打席に立ったのが長嶋だった。
長嶋は鮮明にその瞬間を覚えていた。
「ホームランを打ったのはカウント2ボール2ストライクからの5球目、インサイドへのストレートが高めに来た球でした。後日、村山投手に聞くと『シュートが半分中に入った。これでファールにして6球目のフォークボールで三振を取るつもりだった』ようです。私の記憶にあるのは『来た球を無心で打った』ということぐらいだった」
※本記事の全文(約6800字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(鷲田康「長嶋茂雄初告白『天覧試合』秘録」)。全文では、下記の内容をお読みいただけます。
・「ショッキングな出来事」
・スランプの真最中だった
・「いわゆるインスピレーション」
・川上哲治と交わした会話
・「来た球を無心で打った」
・村山投手と大親友になった
〈「文藝春秋PLUS」では、下記の記事もお読みいただけます〉
長嶋茂雄「東京五輪のアスリートたちへ」 鷲田康
◆短期集中連載 長嶋茂雄と五輪の真実 鷲田康
第1回 長嶋茂雄「これが日の丸のプレッシャーか」
第2回 脳梗塞ーーミスターが託した日の丸
第3回 ミスターが感じた「銅メダルの重み」
