アメリカで吹き荒れた「反ポリコレ」の嵐
では、「能力主義」(実力主義)こそが本当に平等なのでしょうか。ハーバード大学が試験の結果だけで合否を決めると、アジア系が多くなります。中国人、韓国人、日本人は教育熱心な家庭が多いので、学力試験では好成績を取る学生が多くなります。学力だけで合格させると学内がアジア系が多くなるとして、一時は「アジア系」はほかの人種の人たちより高い成績を取らないと合格できないということが起きていました。
多様性促進政策は「ポリティカル・コレクトネス」という概念に基づきます。日本語にすると「政治的正しさ」でしょうか。人種やジェンダー(社会的・文化的な性差)など、「社会における特定のグループのメンバーに対して、不快感や不利益を与えないように配慮する政策」を指します。リンドン・ジョンソン大統領が出した大統領令が起源です。
1950年代から1960年代にかけて、黒人差別に対してマーティン・ルーサー・キング牧師らによってアメリカで公民権運動が盛んになり、その成果として1964年に公民権法が成立しました。
アメリカにおける人権的不公正の排除にスポットをあてたもので、もともとジョン・F・ケネディ大統領が実現させようとしていたのですが暗殺されてしまったので、ケネディの遺志を継ぎました。この法律の理念を実践するために、アファーマティブ・アクションがとられ、雇用や教育面におけるマイノリティに対する差別を解消しようという動きが活発化したのです。
しかし、マイノリティを優遇しようとすれば、マジョリティが「逆差別」と感じることとなりました。
たとえばアメリカでは、宗教差別につながるので公の場では「メリークリスマス」と言わず、「ハッピーホリデー」と言い換える風潮が広がっていました。さすがに行き過ぎたポリコレに対し、「うんざり!」と思っていた人は多かったのです。
トランプ氏は保守系の集会で、「再びメリークリスマスと言おう」と訴えていました。
アメリカでは、トランプ大統領の方針を受けて、マクドナルドやウォルマート、フォード・モーターなどの大手企業が、多様性を尊重するDEIの取り組みの廃止を相次いで発表しています。
企業には、「バド・ライト」のトラウマもあるのでしょう。バド・ライトは労働者層に人気のビールのブランド「バドワイザー」の低アルコールビールで、シェアNo.1でした。ところが2023年にトランスジェンダーの俳優を広告に起用したところ、保守層が猛烈な不買運動を起こし売り上げが低迷、首位から転落してしまったのです。親会社のアンハイザー・ブッシュ・インベブ株も暴落することになりました。
