性別、国籍、年齢、障害の有無などにかかわらず、誰もが社会の一員として尊重され、平等な機会を得られる社会が目指されるなか、アメリカ合衆国大統領のドナルド・トランプは、DEI(多様性・公平性・包括性)の推進方針を大きく変更した。
その流れを受け、マクドナルドやウォルマート、フォード・モーターなどの大企業もトランプの方針に追随。いったいアメリカで何が起こっているのか。日本に及ぶ影響とは……。池上彰氏による『知らないと恥をかく世界の大問題16 トランプの“首領モンロー主義時代”』(角川新書)の一部を抜粋し、紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
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少数派の権利重視は逆差別を助長?
ドナルド・トランプ氏は多様性を推進したジョー・バイデン政権の立場を、ことごとく否定する姿勢を明確にしています。
「DEI」の推進方針も見直しました。DEIとは、ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂性)の頭文字を取った言葉です。日本語では、「多様性目標」と呼ばれます。
年齢や性別、性的指向、人種、国籍、民族、障害などの違いにかかわらず、すべての人たちを一定割合で雇用したり、積極的に企業の重要ポストに登用したりしよう。こうした考えを社会が積極的に取り入れるべきだという風潮は、バラク・オバマ大統領の時代から強まりましたが、保守派は「行き過ぎだ」と、強く批判していたのです。DEIに反対する動きのウラには、「白人至上主義」が潜んでいます。
「アファーマティブ・アクション」もそうですね。日本語で「積極的差別是正政策」といいます。アメリカでは連邦最高裁判所がハーバード大学などの大学の入学選考に対して、人種による「優遇」は認めないという判決を下しました。
アメリカでは、黒人たちは奴隷の子孫として十分な教育の機会が得られず、結果的に学力試験では成績が低くなる、黒人たちのレベルを上げるために、あえて入学試験で下駄をはかせて合格させ、人種的な格差を埋めていたのです。
しかし白人にしてみれば、自分より成績の悪い黒人やラティーノが合格して自分が落ちたら、逆差別だと言いたくなるでしょう。実際に「逆差別だ」との声が大きくなり、トランプ氏によって選ばれた保守派の裁判官たちによって、長年採用されてきた入学選考の方法が覆されたのです。
