思想家のホセ・オルテガ・イ・ガゼットが「選挙制度が適切なら何もかもうまくいく。そうでなければ何もかも駄目になる」という言葉を残したように、選挙制度は政治、ひいては国のかたちに大きく関係する。
日本の選挙制度ははたしてどのように評価できるだろうか。どっちつかずの折衷案と揶揄されることも珍しくない小選挙区比例代表並立制を、池上彰氏は“いいとこ取り”と評価する。その真意とは。同氏による『知らないと恥をかく世界の大問題16 トランプの“首領モンロー主義時代”』(角川新書)の一部を抜粋し、紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
◆◆◆
「2大政党制」 VS.「完全比例代表制」
このごろつくづく選挙制度は「国のかたち」を決めるものだと思います。
日本は戦後長らく自由民主党(自民党)政権が続いていたので、政権交代可能な2大政党制を目指そうと1996年に行われた衆議院選挙で小選挙区比例代表並立制を導入しました。
小選挙区比例代表並立制とは、1選挙区につき最も得票数が多かった候補者が当選する「小選挙区制」と、得票数に応じて政党に議席が配分される「比例代表制」のハイブリッドです。
アメリカは完全小選挙区制なのですね。よって「共和党」と「民主党」の2大政党制になっています。選挙戦を取材に行くと、支持者同士がののしり合い、大統領選挙期間中はテレビCMでも相手の悪口合戦です。お隣の韓国(大韓民国)でも、「国民の力」と「共に民主党」が徹底的に相手を潰そうとしています。
これまでは2大政党制が理想だと思っていました。どちらかが失敗したら政権交代が起きる。こうして民主主義は鍛えられていくものだと。でも、考えを改めました。アメリカや韓国の選挙を見ていると、結局、2大政党制があらゆるところで対立と分断を生み出している実態があるのです。
日本の選挙制度はよくできている?
その一方、イスラエルは1院制で完全比例代表制です。つまり多種多様な意見を国会に反映することができます。民主的でいいのですが、結果的に小さな政党が乱立し、必然的に連立政権を組むことになります。いまのベンヤミン・ネタニヤフ政権はパレスチナをイスラエルが占領すべきだと主張する極端な政権と連立を組んでいます。「ユダヤの力」は2025年1月、ガザ地区でのハマスとの停戦に反発し、連立政権から離脱してしまいました。しかし、ガザ地区への攻撃再開を受け、同3月、ネタニヤフ連立政権に復帰しました。
このように完全比例代表制では、極端な政党に引っ張られてしまうこともあります。
翻って、日本は2大政党制と完全比例代表制を足して2で割ったような小選挙区比例代表並立制です。いわば“いいとこ取り”なのです。少数与党は野党の意見を聞かなければ先に進めない。これが意外に分断を防ぐしくみになっているとも言えます。
