イタリア・ミラノで誕生した家具ブランド、アルフレックス。1969年にアルフレックスジャパンが設立され、長年「イタリア生まれ、日本育ち」としてイタリアの上質な暮らしを日本の住環境に合わせ提案をしてきた。そのショールーム「カーサミア河口湖」が、山梨県鳴沢村にある。今回はリニューアルを遂げた「カーサミア河口湖」の見どころを紹介しよう。
Text:Michiko Inoue
イタリアの心豊かな暮らしを、日本の“カタチ”で届けたい
1951年、イタリア・ミラノでタイヤメーカーのピレリ社のエンジニアたちと建築家マルコ・ザヌーゾによって設立されたアルフレックス。当時珍しかったゴムベルトやポリウレタンフォームなどの素材をいち早く家具に取り入れ、製品開発をスタートした。
当時のイタリアは第二次世界大戦後の混乱から復興していくさなか。家具は一人の職人が最初から最後まで作るのが当たり前で、アルフレックスは雇用創出も考え量産化できる体制を取り入れた。その後、チニ・ボエリやBBPRなど、歴史に名を残すデザイナーとコラボレーションし数々の名作家具を生み出していく。
そんなアルフレックスが日本に登場したのは、1969年のこと。アルフレックスジャパンの創業者である保科正がイタリアに渡ったことから始まる。1960年代にアパレルブランド「VAN JACKET」で働いていた保科は、イタリアの豊かな暮らしに心を動かされ「日本の住文化を豊かにしたい」と考えた。ミラノで2年半にわたり家具づくりを修業後、極東地域での販売権とオリジナル家具の製造権を得て、アルフレックスジャパンを設立する。
保科正がイタリアで体験した「豊かな暮らし」とは
イタリアでは数十年、数百年前に竣工した建物で暮らすのが当たり前だ。古い建物であっても、そのなかで自分たちがどういう暮らしをしたいか考え、インテリアを楽しむ文化がある。また、家族や従業員、仕事仲間で食卓を囲み、食事の時間を大切にするのもイタリアらしさ。料理は決して贅沢なものではなく、テーブルには自家製のサラミや近隣のブドウ畑からつくられたワイン、マンマが作ったパスタなどが並ぶ。そして親から引き継いだ銀食器を磨いて大切に使う、そのような真摯に生活に向き合い、住まいと家族を大切にする価値観に保科は惹かれたという。
設立後はイタリアのモダンファニチャー思想を受け継ぎつつ、日本の住環境や暮らしに合ったオリジナル製品も開発。創業当時から一貫しているのが、「ライフスタイル」を提案しているということ。家具単体ではなく空間全体、住まい全体を通して「豊かな暮らし」を伝えたい――そんな想いから、1987年に建物から設計したショールーム「カーサミア河口湖」がオープンする。
自然豊かな森の中にある、4つのライフスタイル
カーサミア河口湖は、約4500坪の敷地に異なるコンセプトの3棟のモデルハウスと、撮影スタジオやアーカイブの展示が行われているサテライト棟、研究などを行う建物の計5棟からなる。オープンから37年経ったこともあり、設備の交換と内装のリニューアルを行い、現代のライフスタイルに即した住まい方を提案する施設として、今年6月に再オープンした。3つのモデルハウスを順に紹介しよう。
モデルA 家族や友人とキッチンに立つ、子ども+夫婦の家
時間によってさまざまな自然光が入るよう、間取りや角度を設計されたモデルAは、実家を譲り受けてリフォームをした40代夫婦と子ども1人のファミリーを想定している。1階はドアをすべてなくし、壁を隔てていた独立型からアイランドへと変更されたキッチンとスキップフロアで高低差をつけ空間を仕切ったリビングダイニングがシームレスにつながり、食を中心にコミュニケーションが生まれる場所へと刷新された。
モデルB 60代のセミリタイア夫婦が長年過ごした自宅をリフォーム
モデルBは、60代のセミリタイア夫婦が、長年過ごした自宅をリフォームした設定だ。イタリアを代表する総合家具ブランド、モルテーニの全面監修のもと、1階は社交スペース、2階はプライベート空間と役割を明確に分けている。かつてのこども部屋は名作家具に囲まれたゲストルームに、元寝室だった部屋は大きなウォークインクローゼットに変わるなど、モダンとクラシックが融合する空間へと更新された。
モデルC-AとC-B 時を経ても変わらない、イタリアらしさを感じる建物
C-AとC-Bは、2つの住戸がつながったテラスハウス(連棟住宅)だ。C-Aは、既存のキッチンを刷新し、モルテーニのシステムキッチンを導入。冷蔵庫や食洗器などのビルトイン家電の入った収納もモルテーニでのもの。ダイニングチェアやキャビネットは、アルフレックスのものをコーディネートしている。
C-Bは、キッチン含め竣工当時の姿をできるだけ残し、家具と小物の入れ替えのみで暮らしをアップデートした。元々この建物は北イタリアの住まいをイメージし、建具などは本場から取り寄せている。いまでも古さを感じさせない空間だ。アーティスト活動をする30代カップルを想定した住まいで、鮮やかな色使いの家具やアートでコーディネートした。
リニューアルを経て生まれ変わった「カーサミア河口湖」。現代の暮らしに合わせ変化させたところはあっても、イタリアらしくていねいに、長くものを使い続けるライフスタイルが根底にあるからこそ、古さを感じさせない。リニューアルを経て、同ブランドが提案する、現代における「豊かな暮らし」を体感できる施設となっている。ぜひ一度、足を運んでみてほしい。![]()


