元ネタの文脈に閉じすぎている息苦しさも

『ジークアクス』も5話以降、物語が大きく飛躍して次の展開が読めない超展開の連続となっており、描写不足に感じる場面が多い。

 それでも作品として成立しているのは登場するキャラクターの多くが『ファーストガンダム』に由来する存在なので、最小限の説明と描写でも、『ガンダム』ファンが文脈を読み取ってくれるという情報の圧縮が成立しているからだ。

 つまり本作は、作り手がちりばめた『ガンダム』を元ネタとしている情報の文脈を受け手が瞬時に読み取り、続々と考察を生み出すという好循環によって成立している。

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 この閉じた円環の中で漂うことを楽しめるならば、『ジークアクス』は最高のアニメなのだが、あまりにも世界が閉じていることに息苦しさを感じることも多い。

モビルスーツ「ギャン」の登場は「ファーストガンダム」のファンにとって間違いなくテンションが上がる場面だった 公式Xより

 しかし、この考察の円環がとても荒れたことがあった。

 それは第6話に登場したニャアンの部屋にある本棚の様子が元・乃木坂46出身の西野七瀬がテレビ番組で見せた本棚とそっくりだったという情報が流れた時だ。

 同時に、マチュという愛称が同じ元・乃木坂46の松村沙友理の愛称だから、マチュのモデルは松村で、ニャアンも西野七瀬がモデルではないか? という考察が溢れ、その後、続々と乃木坂ネタが散りばめられていることが明らかとなった。

 これは鶴巻監督が乃木坂46のファンであることから、ある種の遊びとして入れられていたのではないかと推察されている。

 他にも、世間を騒がした実在の人物をモデルにしたと思しきキャラクターが登場したことに対しても強い反発があり、その時の『ジークアクス』の考察界隈は異常な荒れ方をしていた。

 パロディやオマージュを散りばめ、その元ネタの知識を共有して楽しむというオタク的作法は『エヴァ』以降のアニメでは消費の作法として定着しているが、『ガンダム』は許せるが、乃木坂は許せないと憤る発言を見て、考察には許される元ネタと許されない元ネタがあるのかと、興味深かった。

主人公である「若者3人」の物語はどう決着するのか 公式Xより

 その後、乃木坂ネタの話題は沈静化しており、現在は『ジークアクス』の世界が『ファーストガンダム』の世界から分岐した並行世界の1つだということが最大のトピックとなっている。『ガンダム』としては大胆な仕掛けかもしれないが、近年のアニメやマーベル映画を観てきた立場からすると、凡庸な仕掛けで、予定調和に感じる。

 それよりも乃木坂ネタのような本来、世界観と関係ない題材が『ガンダム』と衝突した時に起きた混乱にこそ、筆者は新たな表現の可能性を感じた。

 思えば、テレビシリーズの『エヴァ』も、元ネタ探しや考察では終わらず、庵野秀明の私小説的な側面が強く出たことによって生まれた強いメッセージ性と現実との接触こそが、社会現象となった最後の決め手だった。

 好きなアイドルへの愛でも何でも構わないのだが、鶴巻監督のパーソナリティがむき出しになることで物語が現実と接続され、予定調和を超えるゼクノヴァが起こることを期待している。

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