「呪術廻戦」のもう1つの大きなテーマは、やはり「呪い」だろう。

  本作における「呪い」は人間の負の感情から生まれたものの総称で、「呪力」や「呪霊」といった作品世界の中核にある設定だ。

五条悟 公式YouTubeより

『呪術廻戦』の魅力がもっとも現れた外伝的なエピソード

  同時に、第1話で虎杖が「人を助けろ」という祖父の言葉に対して「面倒くせえ呪いがかかってんだわ」と言う場面からもわかるように、ある価値観を内面化して、自分の行動や考え方を規定してしまうことも「呪い」として表現されている。

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  海野つなみの漫画『逃げるは恥だが役に立つ』(講談社)が2016年に連続ドラマ化されて以降、特に恋愛や労働の場面で、万人が正しいものだと思い込んでいる歪んだ価値観を内面化して苦しむ姿を「呪い」に例える表現は定番化している。『呪術廻戦』が描く「呪い」にも同じ意味が込められているように感じる。

  SNSが普及したことで、悪意のこもった無責任な言葉に一喜一憂している私たちは、新しい時代の「呪い」に晒されていると言って間違いないだろう。そういった現代的な気分を少年漫画の枠組みを通して描いていたのが『呪術廻戦』だったのではないかと思う。

両面宿儺(『呪術廻戦』PVより)

  それがもっとも的確に表現されていたのが、第8巻に収録されている「第64話 そういうこと」だ。

  この回には、中学時代に虎杖のことを好きだった小沢優子が登場する。中学時代に太っていた小沢の体型をクラスメイトが揶揄する中、ご飯の食べ方や書く文字が「すげー綺麗なんだよ」と虎杖が話しているのを聞いて「虎杖君は私の知らない私を見てくれる」と彼女は喜んだ。

  しかし「痩せた今の自分なら虎杖と付き合えるのではないか」と思ったことに対して彼女は自己嫌悪し、「私は私が嫌いな人達と同じ尺度で生きている」と、かつて自分を傷つけた外見至上主義という「呪い」を自分自身も内面化していたことに気づいてしまう。

  1話完結の外伝的なエピソードだが、『呪術廻戦』の魅力がもっとも現れた回だったと思う。