ミス連発の選手に「資格剥奪」「国外追放」の書き込み
そんな韓国の日本批判にもどこか余裕が感じられるのもそのはず。
韓国は最後に、これぞ“韓国闘魂”の真骨頂といわんばかりの試合を見せた。
6月27日の韓国VSドイツ戦。
DF金英権選手が初ゴールを決めた瞬間、ソウル市内のそこここでは歓声が鳴り響いた。
歓声があがらないわけがない。相手は前回大会の覇者であり、FIFAランキング1位の強豪ドイツ。韓国はそれまで初戦のスウェーデン(0-1)、第2戦のメキシコ(1-2)と黒星を重ね、その負けっぷりへの苛立ちの矛先はミスを連続したDF張賢秀選手へと向かっていた。「資格剥奪」から「国外追放」「鞭打ちの刑」などの醜い書き込みはネットや青瓦台(大統領府)の請願掲示板にまで広がって、韓国は憂鬱な雰囲気に覆われていた。
ドイツ戦前、知り合いの40代の会社員は、「ミスをした選手のプレーをみると、国家代表の技術があのレベルでいいのかと憤りも感じましたが、あくまでもスポーツ。SNSで個人攻撃がされているという事実が、ただでさえ負けて悔しいのにさらに嫌な気分にさせる」と話し、ドイツ戦については、「相手は世界一のドイツですよ。勝率は0.0000……くらい、勝てたら奇跡」と諦めきっていた。
ドイツ戦当日の朝刊にも、「1% それでも信じてみる」(京郷新聞、6月27日)、「作戦名はミッションインポッシブル」(中央日報、同)など祈るような見出しが並んだが、まさかの大番狂わせが起きた。
「日本の躍進を見るのは正直つらかった」
スポーツ紙記者の声は弾んでいた。
「ベスト16は逃しましたが、それでも、ドイツ戦での選手たちの戦いぶりは闘魂あふれる内容で、よくやったと讃えたい。国民もこういう試合が見たかったのだと思います。韓国では昨年夏に代表監督が交代し、W杯前の成績不振とこれまでの過程が日本と似ていましたから、韓国が負け続けていた時に日本が躍進しているのを見るのは正直つらかったし、羨ましかった。でも、韓国も有終の美を飾れたので、日本もアジア代表としてがんばってほしい(笑)」
ドイツ戦で初ゴールを決めた金英権選手は、前回のブラジルW杯での不振や、今回のW杯アジア最終予選でのイラン戦で「観衆の歓声が大きくて、選手同士のコミュニケーションが難しかった」と発言し、ネットで大きく叩かれていた。それが一転、今大会の活躍ぶりに韓国では「『カバン権(クォン)』をあげよう」という声が上がっている。「カバン権」とは、「ある活躍や善い行いで、他の過ちについての非難を免ぜられる権利」という意味の造語で、例えば、軍隊にきちんと入隊した芸能人が除隊した時などによく使われる言葉だ。
今大会でもっとも酷い個人攻撃を受けた張選手も、ドイツ戦で“お咎めなし”の雰囲気になるかと思いきや、こちらは試合後にも、「張のミスがなければベスト16に行けた」という恨み節がまだくすぶっている。29日に韓国に帰国した選手の記者会見時には、ファンから卵が投げられた一幕もあった。
棚ぼたのメキシコでも大騒ぎ
それでも、サッカー史を塗り替える立役者となったと韓国メディアも一転、「私たちはきみたちが誇らしい」(東亜日報)、「韓国サッカーの奇跡 世界1位のドイツ破る」(中央日報)などと賛辞を送った。その一方では、驚きを込めて「本当に勝ちましたか」(朝鮮日報)、「脚本のない勝利」(ソウル新聞)というものも。
こんな興奮は韓国だけではなく、棚ぼたのメキシコも大騒ぎだそうだ。メキシコはスウェーデンに0-3と負けて、ドイツが勝てばグループリーグ突破は夢と消えるはずだった。現地にいる韓国人は英雄扱いで街中で胴上げされ、駐メキシコ韓国大使館の参事官が現地職員にかつがれる姿などの動画がYouTubeにアップされ、アエロメヒコ航空では韓国人客を2割引にすると発表するなど韓国人気はうなぎ登りと、韓国でも話題になっている。
それにしても、スポーツは最後まで何が起こるか分からない。
いよいよベスト8を賭けた戦いが始まる。
次は勇姿を期待したい。