公益財団法人「日本オペラ振興会」(分林保弘理事長)がコロナ禍の2020年、実態としては支払っていない金額の出演料をもとにして、助成金を経産省の外郭団体に請求し、最大150万円程度を不正受給した疑いがあることが「週刊文春」の取材で分かった。内部告発があり、第三者委員会が調査しているという。
財団側の“ピンハネ”を歌手が告発
財団は1981年に発足。現在は傘下に、西洋オペラを上演する1934年創立の名門「藤原歌劇団」と、日本オペラを主体とする劇団「日本オペラ協会」を抱える。
このうち「藤原歌劇団」の歌手が2024年10月、不正やハラスメントを質す文書を理事長あてに送付した。この告発文書には〈寄付の強要と出演料の減額〉との項目がある。
告発文書によれば、歌手はコンサート当日、仕切り役の男性から、出演料として既に合意していた金額(10万円)の半額(5万円)を提示された。同時に、出演料の4倍にあたる20万円の領収書への署名と、財団へ15万円を寄付する旨の書類に署名を指示された。説明を求めると、その場で合意できないなら出演料はすぐには支払わない、と言われたという。
つまり財団側による15万円の“ピンハネ”の要求だ。告発した歌手が取材に応じて明かす。
「このコンサートは、コロナ禍で経産省が主導した『コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業費補助金(J-LOD)』という助成金を受けています。この助成金は、イベントの費用負担を軽減するためのもので、出演料の申請があった分、そのまま補填する仕組みだったようです」
コンサートの出演者は10人ほどに及び、複数の証言によれば多くが同じように寄付を要求された模様だ。実際は支払っていない「差額」も含めて助成金を申請していれば、組織ぐるみで最大150万円程度の公金を不正に受け取った疑いがある。
本人を直撃すると…
当時、出演者の歌手と、寄付を要求した男性とが交わした証拠メッセージも「週刊文春」は入手した。歌手が「寄付前提の話は、どなたからの発案ですか?」と男性に尋ねると、男性は「すみません。発案者は私です」「皆さんにも了解して頂いた」「サインして頂くだけです」と答えている。
要求した男性本人に改めて尋ねた。
── (コロナ助成金で)出演料より高い金額を申請していた。不正受給に当たるのでは?
「出演者の皆さんから出演料を少しバックしてもらうような方法を取って、赤字にならないようにした方がいいんじゃないかと。寄付を募って、皆さんに賛同していただいたわけですから、私としては不適切だったとは思っていません」
財団に質問すると、このJ-LODの助成金は受け取ったと認めた上で、不正かどうかの明言は避け、「第三者委員会に事実確認も含め一切の調査を委任しております」などと回答した。
違法性について識者に見解を聞いた。刑事事件に詳しい元東京地検検事の若狭勝弁護士が語る。
「指示をした男性の行為は、詐欺罪に当たり得るでしょう。仮に自分の懐ではなく、団体にお金を入れていたとしても、第三者に利益を与えるという意味の『第三者詐欺』が成立します。またこの指示に団体の理事長などトップが関わっていたならば、詐欺罪の共謀にあたります。今後、団体が不正に詐取した金銭をもし弁償しなければ、指示した人には、1年半〜2年程度の拘禁(懲役)刑が科せられる可能性があります。
さらに出演者にサインをさせるにあたり、『出演料を払わないぞ』などと脅して、自分に不利益が発生する、というような雰囲気のもとで困惑させ、無理やりサインさせた場合、強要罪が成り立つこともあります。
そして、10万円がもらえるはずだったところを5万円に減額されたとなると、団体側の不当利得になるため、民事請求をしていくことも可能だと思います」
”公金詐取”はなぜ起きたのか。実は財団には、深刻な“財務危機”が迫っていた――。配信中の「週刊文春 電子版」記事では、不正の手口を詳報。オペラ界の苦境を、複数の証言と証拠、財務資料から分析している。

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