平成21年に起きた、耳かき店の女性セラピストと彼女の祖母が常連客に殺害される事件。当初は良好だった2人の関係だが、加害者の男が彼女に詰め寄るにつれて一転。ついに出禁にされた男は、「とんでもない行動」に出る…。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全3回の2回目/最初から読む)
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ついに男は店を「出入り禁止」に…
「オレはこれだけ尽くして通ってるんだからいいじゃないか」
「今日は体調が悪いの……」
「食事にも行けないぐらい体調が悪いのか。だったら仕事なんかせず、家に帰ればいいじゃないか」
「店の売り上げのために帰れない。どうして分かってくれないの……」
「オレのこと、どう思ってるんだ。付き合ってくれないなら、もう店に来ないよ!」
吉田にしつこく食い下がられ、里奈さんは返す刀で、「そういうつもりで来ているなら、もう来ないでください!」と言い放った。吉田は捨て台詞を吐いて、店から出て行った。
「もう彼を接客するのは、限界かもしれない……」
その日、里奈さんは店長に事態を報告し、吉田を「出入り禁止」にすることに決めた。その後、吉田はまた予約するために里奈さんにメールを送ったが、〈もう来ないでください〉と返信されて戸惑った。〈なぜだ?〉という問いかけにも具体的に答えず、〈もう無理です〉と繰り返すばかりだった。
埒が明かないと思った吉田は1カ月後、仕事から帰る途中の里奈さんを尾行し、自宅近くで声をかけた。里奈さんはギョッとし、「もう無理ですから」と言って、その場から立ち去った。
その翌日から里奈さんの帰りの際には店長らが送り迎えをするようになり、吉田は接触するチャンスを失った。
それから2カ月間、吉田は悩み苦しみ、ようやく店長らが送り迎えをしなくなったのを見計らって、再び帰宅途中の里奈さんに声をかけた。
「なァ、頼む。オレは店に行きたいだけなんだ。もう以前のようなことは言わない。だから出入り禁止を解いてくれ」
「無理だと言ったら……」
「そんなこと言わないで……」
「無理です!」