「日中の親善と東亜の存続は双生の関係にある」――。

「あんぱん」でも嵩が宣撫班の任務で紙芝居を作る際の参考にしていたが、この言葉は実際に清が書籍に残した言葉だ。平和を愛し、共生を目指した清の心は、アンパンマンの中に確かに息づいている。

生前、父・清が残した手紙に「どんな職業に就くにしても、詩を書くことと文章を書くこと、絵を描くことは続ける。そして自分の著書を出版したい」という一節があったそうだ。まさにそんな父の遺志を継いだ、やなせたかし。

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時々、仏壇の遺影に「お父さん、これでよかったのか」と語りかけたという。返事はなかっただろう。かわりに響いているのは、アンパンマンが大好きな子供たちの熱狂だ。

(文中敬称略)

市岡 ひかり(いちおか ひかり)
フリーライター
時事通信社記者、宣伝会議「広報会議」編集部(編集兼ライター)、朝日新聞出版AERA編集部を経てフリーに。 AERA、CHANTOWEB、文春オンライン、東洋経済オンラインなどで執筆。2児の母。
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