2025年5月14日の午後4時過ぎ。埼玉県三郷市の長閑(のどか)な住宅街で下校中の小学生の列に1台の車が突っ込んだ。

 車を運転していたスキンヘッドの男は、剃り上げた頭に手を回しながら車を降り、呆然とする子供に煩わしそうな表情で声をかけた。

「ここは邪魔だから別の場所へ移動する」

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 片言でそう言い残すと、何事もなかったように運転席に戻り、悠然と事故現場を後にした。

小学生4人が重軽傷を負った ※写真はイメージ©AFLO

 6月6日、さいたま地検は自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷アルコール等影響発覚免脱)と道交法違反(ひき逃げ)の罪で鄧洪鵬容疑者(42)を起訴。同日、運転手の飲酒を知りながら同乗したなどとして、逮捕されていた同乗者男性(25)は不起訴となった。一体何が起こっていたのかーー。当時の記事を全文公開する。

(初出:「週刊文春」5月29日号。年齢、肩書は当時のまま)

飲酒運転とひき逃げの疑いで逮捕された鄧容疑者

◇◇◇

小学6年生の児童4人が重軽傷を負った

 社会部記者が当時の状況を解説する。

「事故に遭ったのは、近隣の小学校に通う小学6年生の児童たちでした。4人が負傷し、うち1人は右足甲を剥離骨折する重傷を負っています。現場には、足から血を流す子供の姿もあった。車から現れた2人の男は通報や救護活動をせずに走り去りました」

 逃走の瞬間は防犯カメラなどによってまざまざと捉えられていた。捜査の末、事故翌日には現場から約2キロ離れた民家の駐車場で車両が発見、押収された。

見つかったのは“価値1000万円超”の高級SUV

「見つかったのは英国ジャガー・ランドローバー製の高級SUV車『ディフェンダー』でした。オフロード性能が高いモデルで人気もあり、中古車でも1000万円以上の値段がつくことは珍しくない」(同前)

鄧容疑者の愛車(NHK HPより)

 SUV車が停められていた民家は、築33年の木造3階建て。高級車は、事件の前からたびたびこの民家で目撃されていた。近隣住民が語る。

「あそこは東京の建設業者の寮なんです。4年くらい前に一度、アジア系の社長らしき男性が菓子折りをもって挨拶にみえた。5人くらいの外国人の方が住んでいて、自転車で出入りするのを時々見ます。SUVは3月くらいから停まっているのを見かけるようになりました」

 建設業者の取引先が取材に応じた。

「事故後、社長から『車に同乗していたのはうちの実習生なんだ』と打ち明けられました。しかし彼は『あんな車が寮に停めてあったなんて全く知らなかった』とも言っていた。発覚後は同乗していた実習生を懇々と叱ったと聞きました」

乗り棄てられていた民家

 事件翌日の15日、警察は助手席に座っていた容疑者男性(25)を特定し、事情を聞いていた。だがこの時点でも運転していた男の行方はわからぬまま。

 建設業者の事務所を訪ねたところ、実習生の1人はこう語った。

「スキンヘッドの男も、ランドローバーも見たことがない。彼は実習生ではない。私たち(実習生)ではとてもああいった車には手が出ませんから」