その夜
結局、宇喜田さんを諦めきれなかった花代は、4月8日に宇喜田さんと会うことになる。夫には、友人と花見に行くと告げて家を出た。夕方から居酒屋をはしごして飲み歩いたふたりは、途中でとある馴染みの居酒屋の話になる。宇喜田さんはその居酒屋主催で毎年行われていた花見の話をしたという。その年、その居酒屋主催の花見は雨で中止になっていた。それを宇喜田さんがことのほか残念がっていたのを、花代は不愉快な思いで聞いていた。というのも、その居酒屋は件のAさんも行きつけとしていて、さらには何年か前のその居酒屋主催の花見に、宇喜田さんがAさんを伴って参加していたことを思い出したのだ。
宇喜田さんが残念がっているのは、花見ができなかったというよりむしろ、Aさんと会う口実がなくなったからであり、ひいては今日こうして花代と会っているのも、Aさんの代わりなのではないか、そんなふうに思えてならなかった。花代は卑屈になり、酒の酔いも手伝ってAさんの話題を持ち出しては宇喜田さんに絡み始める。
一方で、宇喜田さんはこの日も花代に肉体関係を迫った。ふたりは話が噛み合わないまま、それでも店を変えながら深夜まで飲み歩いた。まるで、先に帰ると言ったほうが「負け」であるかのように。
最後の店を後にしたのは、深夜2時を回ったころだった。泥酔に近い状態の宇喜田さんは、いつになくしつこかった。ホテルへ行こうとの誘いに花代が乗らないと、「お前の体のどこにほくろがあるのか、全部旦那にばらしてやろか」などと、脅すようなことを言い始めた。うんざりした花代が帰ろうとしたところ、立ちはだかった宇喜田さんがこう言い放った。
「おっぱいだけでも触らせろ!」
花代はぶちキレた。
