「おっぱいだけでも触らせろ!」――迫ってきた66歳の愛人男性に抵抗するため、首を絞めて殺害してしまった59歳の女性。「被害者は突然死である」と主張した彼女の主張は退けれ…。平成8年に起きた事件の顛末を、事件サイト『事件備忘録』を運営する事件備忘録@中の人の新刊『好きだったあなた 殺すしかなかった私』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全3回の3回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty

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裁判

 裁判で花代と弁護人は、先に述べた通り「宇喜田さんは突然死である」と主張。司法解剖によれば、宇喜田さんには目立った外傷がなかったものの、頚部に表皮剥脱、眼瞼結膜、表皮下に多数の溢血点、頚部リンパ節のうっ血が高度であるなど、頚部圧迫による窒息を示唆する所見は認められた。一方で、解剖を担当した医師によると、確かに宇喜田さんには中程度から高度の動脈硬化、心筋梗塞巣が認められていた。

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 そのため、検察が主張する頚部圧迫による窒息死とは断定できないと弁護側は主張したのだ。解剖した医師は、鑑定書において「死因は、頚部圧迫による窒息死が一番考えられるが、頚部圧迫により心臓に負担が生じ、窒息と心筋梗塞による症状が同時に起こって死ぬ可能性もかなり低いが考えられる」としていた。

 花代も、取り調べで刑事に誘導されたため、スカーフで首を絞めたと虚偽の供述をせざるを得なかった、といった主張をしていたが、裁判所はそのいずれも退けた。花代が首を絞めていない、とした主張も、そもそも花代は家族に伴われ自首しており、自首以前に花代から話を聞いていた夫と娘婿も、花代自身から宇喜田さんの首をスカーフで絞めたと聞かされていたのであって、十分信用できるとした。

 その上で、供述調書には花代の記憶違いについてもきちんと記載されており、花代の当初の供述が警察官の誘導や押し付けによるものではない、とした。