熟年不倫の末に、殺人犯と被害者の関係になってしまった男女。59歳女性が「7歳年上の愛人男性」を殺害した理由は、男側の「ある失言」があった…。平姓8年におきた事件の顛末を、事件サイト『事件備忘録』を運営する事件備忘録@中の人の新刊『好きだったあなた 殺すしかなかった私』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全3回の2回目/最初から読む)
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公民館にはパトカーが来ており、なにごとかと出てきた近隣住民らの姿もあり、その中で宇喜田さんと花代は警察官に連れられ公民館から出てきたわけだ。すでに町内会ではふたりの関係は噂になっていた。その噂は、この事件を機に噂ではなくなったどころか、多くの町内会の人がその事実を知るところとなってしまった。
町内会は頭を抱えたというが、とりあえず宇喜田さんと花代を町内会の職から外す、ということで決着をつけたようだった。浦安で暮らしていた花代は、この事件以降、東京へ行く口実がなくなってしまったこともあり、実質宇喜田さんとの交際は途絶えていた。しかし、平成7年の年末、偶然宇喜田さんと再会したことから、ふたりの運命は最終段階へと突き進んでいく。
諦めきれない女
偶然再会した際、宇喜田さんは花代を飲みに誘っていた。年が明けた平成8年1月5日、約束通り花代は宇喜田さんと会う。夫には、浅草に用事があると言って出掛けていた。ただこの日、宇喜田さんからセックスの誘いがあったものの、花代はそれを断ったという。花代には、よりを戻す前にどうしても宇喜田さんに確認しておきたいことがあったのだ。それは、あの不倫相手の女性のことだった。
ここでは女性をAさん、とする。花代は浅草で宇喜田さんと会って以降、何度かあった誘いを断り続けた。しかし、どうしても宇喜田さんを忘れることもできなかった。3月、とうとう宇喜田さんの誘いに応じて会うこととなった花代だったが、このときもセックスは拒否した。理由は、飲んでいる最中に宇喜田さんが言った、こんな話が気にかかったからだ。
宇喜田さんは体調を悪くしており、入院していた期間があったというが、そのとき、Aさんが見舞いにも来なかった、そう宇喜田さんは花代にこぼしたというのだ。これを聞いた花代は、宇喜田さんが自分を誘ったのは、Aさんとうまくいかなくなったからではないのか、と思ってしまう。実際そうだったのかもしれないが、花代の心には屈辱感と嫉妬心が綯い交ぜになった複雑な感情があふれていた。
それなら金輪際会わなければいい、はずだったが、そうなるとAさんと宇喜田さんがもっと親密になってしまうのではないか。それも花代にとっては耐え難いことだった。
