舞妓の経験を通じて「もう一度学びたい」と思った理由

――22歳の時、芸妓になっていた松原さんは引退を決めて京都を去り、高校に進むため東京に戻ってきたんですよね。それもやっぱり大きな決断に思えますが、迷いはありませんでしたか。

松原 「舞妓さんになる!」と親に言った時から「引退したら学校へ行きます」となんとなく約束していましたが、いざ舞妓さんになって自分の無知さを痛感し、学び直しの機会があれば是非学び直したい! と思っていました。ですから、他の道はあまり考えていなかったですね。

松原さんの決断はコロナ禍の影響で芸妓さんの仕事が激減したことも後押しした 『舞妓をやめたそのあとで』より

――「仕込みさん」として見習い期間を過ごした置屋では、芸事などの舞妓のお仕事に関すること以外は学ばないのでしょうか。

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松原 芸事は「歌舞練場」という専門の学校のようなところへ行ってお師匠さんの元で習います。置屋ではお母さんや姉さん方と共同生活をする中で、花街言葉や礼儀作法などを学びます。他にもお客様との会話に必要な時事ニュースを知るために新聞を読んだり、歴史などを独学で勉強したりする人もいます。

――なるほど。話を戻しまして「直接教師から指導を受けたい」という理由で、松原さんは通信制ではなく定時制の高校に通うことにしたんですよね。入学してみて、いかがでしたか。

松原 入学前は正直、定時制高校というと「やんちゃな子が多い」というイメージがあったのですが、いざ入学してみると、定時制高校には本当にいろんな人がいました。年も生まれた国もバラバラです。定時制を選ぶ理由もまた、みんなバラバラです。

 今まで不登校だったけれど高校入学を機に頑張りたいと思っている人、少人数の環境で日本語をしっかり勉強したいという外国籍の人、昼間は働いていて夜しか学校に来られないという人、そして私のように大人になって学び直しがしたいという人……。

定時制高校には様々な事情を持つ人々が通う 『舞妓をやめたそのあとで』より

 そういった人たちが集まった環境はどこか独特な雰囲気があり、「お互いに干渉しすぎない」といういい距離感を保てています。全日制高校のような溌剌とした熱気はあまり感じないかもしれませんが、その分自分の頑張りたいことに集中して取り組める環境であると思います。入学前と比べて、前向きなイメージに変わりましたね。

――抵抗感や不安はありませんでしたか。

松原 ありませんでした。寧ろワクワクしていました。