MM隊のスコット・フィッシャーの遺体が発見されたのも、この日の早朝である。劇中では一切描かれていないが、MM隊では初参加のロシア人男性ガイドがまともに任務を果たさず、隊長のスコット自ら体調不良者をベースキャンプに送り返すなど、登頂前すでに彼の体は疲労困憊を極めていた。
加えて、顧客の女性が数度にわたり無酸素登頂を要請(エベレストでは酸素補給なしの登頂が栄誉とされる)、スコットがこれを強く却下したため、隊の中には険悪な空気が流れていたという。そんななかでブリザードに遭遇し、スコットは1人だけ遭難。救助に向かった台湾登山隊のシェルパが彼を発見した際、顔、指、かかとに酷い凍傷を負い、すでに虫の息だったため、救助隊は同じ場所にいた台湾隊の隊長のみを救出。夕方、MM隊のガイドが赴いた際には、スコットはすでに凍死していたという。
エベレストに登ったことは人生最大の誤り
5月12日午前9時ごろ、ロブからベースキャンプに無線連絡があり、ダグ・ハンセンが滑落したこと、アンディ・ハリスが消息不明になったこと、酸素ボンベの圧力調整弁が凍りつき酸素が吸引できないこと、手足が凍傷にかかり下山困難であることを伝えてきた。
昼ごろ、第4キャンプを経由して国際電話にて妊娠中の妻ジャンと会話を交わす。ここは映画でも再現されているとおり、死を覚悟したロブは妻に「アイ・ラブ・ユー」と告げ、すでに生まれてくる子供が女の子と知らされていたため、娘にサラと名付けるよう頼み、自ら電話を切った。その後も本人との無線は通じていたが、夕方には途絶え、このとき息を引き取ったものと思われる。
映画は最後、奇跡的な生還を果たすベックの姿を描く。劇中で、彼の生存は救助隊から無線でキャンプに知らされることになっているが、実際は12日の昼ごろ、自力で第4キャンプにたどり着いた。