凍傷で顔がボロボロ、両足も一部欠損

 しかし、低体温症のためにテントの中で何度も意識を失う様子を見たメンバーはやはり回復の見込みがないと判断し、そのまま置き去りにする。が、夜が明けた13日朝、1人で下山の準備をするベックを確認し、メンバーは驚愕。助けを借りながら6千メートルまで下山したところで、遭難を知った彼の妻が母国アメリカの大統領、ビル・クリントンに陳情し、最終的にヘリコプターで救助される。もっとも、ベックは凍傷で右肘の先と左手の指の大半と鼻、両足の一部を損失。帰国後、再建手術を施した。

 劇中に説明はないが、この日(5月10日)のエベレストでは、チベットから登頂する北稜ルートでもインド・チベット国境警察隊(ITBT)が遭難。隊員3人が頂上付近で死亡している。その際、ITBTの隊長は、同時期に登峰した福岡チョモランマ峰登山隊(日本人2人、シェルパ3人)が遭難者を視認したにもかかわらず、救助せず登頂を優先させたとして非難した。

「私は決してエベレストには登らない」

 金儲けとエレベスト登頂を甘く考えていたために起きた未曾有の遭難事故。無事に生還した作家のジョン・クラカウアーは事故翌年の1997年に『空へ─エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか』を出版。

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写真はイメージ ©getty

 2015年のインタビューで「エベレストに登ったことは、私が人生で犯した最大の誤りだった。本当に後悔している。私は今もPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいる。もし過去に戻って人生をやり直すことができたとしても、私は決してエベレストには登らない」と答えている。

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