経済ジャーナリストの大西康之さんによる連載「裏読み業界地図」。第5回では「五大商社」を深掘りします。

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「組織の三菱」の底力

「組織の三菱」を世間に思い知らせたのが、2004年に実施された三菱重工業、三菱商事、東京三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)による三菱自動車工業への出資である。

三菱商事本店は東京都千代田区丸の内にある ©時事通信社

 この時、三菱自は文字通り瀕死の状態にあった。2000年の「リコール隠し」で業績が悪化し、独ダイムラー・クライスラー社の出資を仰いだ。ところが2004年に2000年を超える規模の2度目のリコール隠しが発覚して、ダイムラーは経営支援を中止する。頼みの綱を失った三菱自は、会社更生法の適用すら難しい状態で「破産は時間の問題」とされていた。

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 ハゲタカ・ファンドですら恐れ慄いて手を出さなかった三菱自に救済の手を差し伸べたのは通称「金曜会」と呼ばれる三菱グループの御三家だった。三菱重工の自動車部が独立したのが三菱自なので、百歩譲って三菱重工は分かる。だが商事や銀行まで出資して、ボロボロの三菱自を守ろうとした。金曜会の世話人代表は三菱商事会長の槇原稔氏だった。

 筆者はこの時、三菱商事でこの問題を担当していた古川洽次(こうじ)副社長の自宅で、真夜中に食ってかかった。

「三菱自は実質、債務超過で、消費者や取引先からの信用も失い、出資にあたって御三家が示した再建策には現実味がない。再建の見通しが立たない会社に何千億円もの資金を投じるのは、三菱商事の株主を裏切ることになる。下手をすれば背任を問われますよ」

 古川氏は静かにこう答えた。