「可愛い声だね。友だちと一緒に遊びにおいで」

 きっかけは1本の間違い電話だった……40人近い男が、1人の女子中学生をレイプし、さらにその後の警察や被害者家族の問題電話が波紋を呼んだ、「韓国・密陽女子中学生集団レイプ事件」。社会全体から袋叩きにあった被害者は何をしたのか? そこで浮き彫りになった韓国社会の闇とは? 実際に起きた事件などを題材とした映画の元ネタを解説する文庫新刊『映画になった恐怖の実話Ⅲ』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/続きを読む)

写真はイメージ ©getty

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韓国で起きた「集団レイプ事件」

 2018年公開の韓国映画「マリオネット 私が殺された日」は女子高生時代に集団強姦され、その動画をネット上で拡散された過去を持つ女性教師の悪夢を描いたミステリーだ。題材となった事件がある。

 高校生41人が1人の少女を暴行し続けた密陽女子中学生集団レイプ事件。その犯行は極めて悪質で、後の警察や加害者の親たちの酷い対応もあいまって、韓国社会の人権意識の低さを象徴する特筆すべき事件と言われている。

きっかけは1本の間違い電話だった

 映画は現在と過去を交錯させながら、主人公が遭遇する悪夢を描き出す。2002年、韓国・楊平の女子高生ユ・ミナ(演:イ・ユヨン)はある日、交際1ヶ月の先輩男子生徒に誘われ彼の部屋へ行く。帰り際、勧められた栄養ドリンクを飲むと意識朦朧となり、気がつけば椅子に後ろ手で縛り付けられている。彼氏が携帯電話のカメラで自分を写しているのを不思議に思うまもなく、仮面を被った男5人が部屋に乱入、レイプに遭い、その様子を動画に撮られる。

 やがて、ネットに出回った動画をもとに警察が動き犯人を逮捕。ミナは転校を余儀なくされ、ハン・ソリンと名前を変更、トラウマを抱えながらも、後に夜間高校の教師に。婚約者との結婚も決まり幸福な日々を手に入れるはずだったが、2016年のある日、忌まわしい過去を思い出させるラインがスマホに届く──。

 ミナが経験したレイプ事件のモチーフになった実際の事件は、一件の間違い電話がきっかけだった。2004年1月、韓国南東部の蔚山に住む中学2年の女子生徒Aさん(当時14歳)が携帯で女友だちに電話をかけたところ、間違って密陽に住む男子高校生キム(同18歳)にかかってしまう。Aさんはすぐに切ろうとしたが、「可愛い声だね。友だちと一緒に遊びにおいで」というキムの誘いに好奇心を刺激され、つい会う約束を交わす。