「採取した骨片は33個」集められた骨片を水を張ったバケツに落としながら確認
――骨が出た。ついに。
「よくやったな」
複雑な思いを伏せて、労いの言葉をかける私に、にこりともせず三木警部補は言った。
「アキオだよ、アキオが呼んだ」
考えることは同じだった。被害者の一人を、我々はなぜか下の名前で呼んでいた。
ほっとしている余裕はない。できれば見つけられる範囲の骨片は置き去りにしたくない。採取活動と見分は続いた。駒井技官は、集められた骨片を水を張ったバケツに都度落とし、その浮き沈みで骨か否かを確認していく。
見分活動をしながら採取した骨片は33個。島崎を立会人として領置(任意の押収手続き)した。
「どうするね?」
一段落した時、三木警部補が厳しい表情で聞いてきた。この特命班の番頭格である。
皆を代表して「親方、どうします?」と尋ねている。
これ以上の検索は、裁判官の許可状が必要な捜索・検証になってしまう。ここに至った捜査過程も、非ではないが、秘匿を最優先した独断専行は否めない。後の公判を考えると、この場の雰囲気に押されて無理をすれば、出てきた骨片の証拠能力にも影響が及ぶ。
死体の損壊・遺棄に関わった被疑者とみられる島崎に、任意で現場案内をさせ、その言い分通り骨が出てきたのである。本来なら証拠を保全するため、いったん現場を閉じ、裁判官の令状を得た上で、強制捜査に移行するのがセオリーだ。そんなことは新米の捜査指揮官でも分かる。
……しかし、とてもここで終える気持ちにはなれない。
DNA型の検出が難しい状態の骨片
島崎は岡崎(仮名)さんの骨を焼いて砕いた灰を撒いたと言っている。出てきた骨片は岡崎さんのものだろう。しかし、それを岡崎さんだと特定できるものはない。
駒井技官の説明を聞くまでもなくDNA型の検出は難しいはずだ。ここで発見された骨片を、供述だけで岡崎さんのものとすることはできない。
ふと、岡崎さんの妻や兄弟たちの顔が脳裏に浮かんだ。必死に岡崎さんを探し続ける彼らにどう説明したらいいか。無意識に足が黒土の方に向かった。つられるように三木警部補も後に続いた。
二人で向かい合うようにしゃがみこむ。
「骨に名前が書いてあればなぁ」
ため息交じりにつぶやいた私の言葉に反応するように、三木警部補がそっと片手を伸ばし、無造作に土をひとさらいした。と、その時。
「うん?」
思わず目を見張った。
3~4cmの円形状の金属だった。土が詰まっていたが、すぐに腕時計の一部だと分かった。
文字盤はないが、機械が収まったケース部分だ。確認する前に叫んでいた。
「出たぞ、時計だ! ロレックスならアキオのものに間違いない」