『マッチング』(24年)『ミッドナイトスワン』(20年)の内田英治監督が原案と監督を担ったオリジナル脚本作品『逆火』。映画制作現場を舞台に、“実話”と銘打たれた新作映画の真相に翻弄される助監督の姿を描いた。「もともと、映画という特殊な世界を舞台にした作品が好きなんです。これまでにもNetflixオリジナルドラマ『全裸監督』(19年)など、いくつかの作品を手がけてきましたが、映画制作現場を舞台にしたミステリー仕立てはやったことがなかったので、作ってみようと思いました」。
「映画界の裏側をよりリアルに」
本作では、いつもなら絶対に選ばないようなロケ地やカラートーンを多用し、リアルさにこだわった。現実にあるものは決して美しくはないし整ってもいない。
「北村(有起哉)さんが演じた助監督・野島夫婦の部屋や海のロケ地など、重要なシーンには、あえて質素で雑然としたイメージの画を採用しました」
北村を主演に起用したのは、彼が醸し出す「リアルさ」に長年惹かれていたからだと話す。「北村さんは、演技はもちろん、存在そのものが非常に魅力的。リアリティがあって、オーバーなアクションをしなくても、目の奥で気持ちを表現できます。疑惑のヒロイン・ARISA役の円井わんさんも含め、個性的で力のある俳優を起用することで、映画界の裏側をよりリアルに表現できると思いました」。
若者世代と大人世代の“埋められない現実”
ARISAを軸とした若者世代とその親世代との価値観の違いもリアルだ。イマドキの若者の象徴として描かれているARISAや野島の娘・光は、実際に同世代の子を持つ親世代への取材を重ね、モデルにした。
「話を聞くと、学校や外ではいい子なのに、家では好き勝手にふるまう『プチ・モンスター』が本当に多い。大人に対する信頼や畏敬の念が薄れ、瞬間的な享楽や内輪の優越感に価値を置く若者世代と、真面目に献身的に努力すれば報われる世界をいまだに信じている大人世代では正義の形も違います。この埋められない現実を浮き彫りにしたかった」
脚本を書いていた時は、新宿の歌舞伎町に群がる「トー横キッズ」が社会問題になっていた時期でもあった。


