「女装を始めたらね、新しい世界が始まったの。ほんと、とんでもない世界だったわ」
愛知県を中心に東海地方で絶大な人気を誇るしおりさんは穏やかな笑みを浮かべてそう話す。テレビ番組への出演を機に、見た目のインパクトと多才さ、ユーモアと知性を感じさせるキャラクターで脚光を浴びると、その後、同じ番組で何度も特集が組まれるように。今では東海地方を中心に多くの人に愛される有名人となった。
しかし、その素顔については番組内で断片的に語られる程度で、ほとんど知られていない。女装家として活動する以前、しおりさんは釣り好きと料理好きが高じて大学で魚の勉強をし、その後はフランス料理店で修業した経歴を持つ。さらに会社員へと転身すると売れっ子営業として大活躍するも、今後は妻が始めた塾で講師として働き始める。
すでに波乱万丈だった人生だが、ここからがしおりさんの凄いところ。この後、創作料理の店を開くと「予約の取れない店」になり、さらには女装家として活躍の場を広げていくことになる。(全3回の2回目/続きを読む)
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原価を考えない料理店をオープン
塾講師の仕事に慣れて落ち着いた40歳前後のころ、しおりさんは今も営業を続ける「Ristorante Va bene(リストランテ ヴァ ベーネ)」を開店している。自宅で家族に料理を振る舞いながら料理の腕を磨き続け、貯金が十分な額に達したことで夢だった自分の店を持った。
「カウンターだけのお店で、席数は6~7人の店です。修業経験があるフレンチはひとりではなかなか作れないから、食材にちょっと手を加えるイタリアンと、和食のいいとこ取りのお店にしたの。塾講師の稼ぎもあったし、原価計算をしないで好き勝手な料理を出そうと思ってね。店では手に入れられる中で、一番いい食材を使ってますよ。だって、お金のことを考えずに遊びで作る料理が一番面白いのよ(笑)」
この時期、しおりさんは剣道場の道場主でもあったというから驚かされる。塾講師として子どもたちと接していて、礼節や精神的な強さを身に着ける場が必要だと考えたのがきっかけだ。塾講師とは違う顔で厳しく指導に当たり、脱いだ靴がそろえられていないと、道場がある2階の窓から投げ捨てることもあった。
それにしても、塾講師にレストランのシェフ、道場主とエネルギッシュにもほどがある。「いつ休んでたんですか?」と尋ねると「若くて元気だったのよね」と苦笑する。

