「女装を始めたらね、新しい世界が始まったの。ほんと、とんでもない世界だったわ」
愛知県を中心に東海地方で絶大な人気を誇る、女装家のしおりさん(74歳)は穏やかな笑みを浮かべてそう話す。本名、柴山和幸。女装を始めたのは2016年3月、65歳の時だった。
フランス料理店での修業や一流企業への勤務をへて、名古屋で創作料理レストラン「Ristorante Va bene(リストランテ ヴァ ベーネ)」を経営していたしおりさんは、なぜ還暦を過ぎて女装に目覚めたのか。しおりさんが女装を始めた日、それから生まれた「変化」について聞いた。(全3回の3回目/最初から読む)
◆◆◆
母が亡くなった日にピアスを開けると、女装の世界が広がった
息子の結婚式当日、妻に離婚を切り出されてやむを得ず受け入れたしおりさん。久しぶりのひとり暮らしで自分と向き合う時間が増えたからだろうか、しおりさんの中で、女装への興味が深まり始めていく。
一歩を踏み出したのは、2016年3月3日。しおりさんの母親が亡くなった日だ。65歳のしおりさんは、思い切って初めてピアスの穴を開けた。すると、一気に新たな自分が開花していった。
「素顔のままではピアスが合わないので、メイクをしてみたの。そうしたら、自分でもびっくりするぐらいキレイで。それで、もうこうなったら一気に変えよう! と思って服も変えました」
女装をするようになって名乗り始めた「しおり」という名前には、理由がある。しおりさんの最初の子どもが双子だと分かった時、なぜか「女の子だ」と確信して「さおり」「しおり」という名前の候補を考えた。ところが、双子の男の子が生まれてきて、その名前は行き所をなくした。その後、弟に娘が生まれた時に、さおりと命名。女装を始めた時、残されていた「しおり」という名前が浮かんできたそうだ。

