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なぜ自分で歌わないのか
n-buna 小説の中でリリカは仮歌を歌う仕事をしますが、仮歌のことをよく調べてお書きになっていて、僕自身がヨルシカの仮歌を担当していることもあって、すごく響きましたね。僕が作るデモ音源は自分で歌っているもので、そこからヴォーカルのsuisさんが歌い方のニュアンスなどを全部汲み取って、ヨルシカの歌にしてくれるというのがいつもの作り方なんです。ですから、僕の歌った音源は世に出ることがない。
小川 その意味では“仮歌のプロ”なんですね(笑)。今やコンピューターでも声は作れるわけです。でも、曲を作った方が仮歌を入れるのがやっぱり最強ですよね。
n-buna 曲の完成像がはっきり頭にある人がディレクションしたほうが絶対にうまくいく、というのはあるでしょうね。歌い手に理想像を提示できるというか。
小川 でも、じゃあ自分で歌おう、という方向にはならないんですね?
n-buna それは単純な話で、楽器としての性能がsuisさんのほうが高いんですよ。飛び道具のようにしたくて一曲だけ僕が歌っているものがあるんですが、ヨルシカの他の曲について、suisさんより良い歌を歌えたと思えたことがない。作品の最終形が美しいかどうかを僕はずっと考えていたいんです。
(後編に続く)
(全文は発売中の「文學界」8月号でお読みいただけます)
