ギタリスト兼作曲のn-bunaさんとヴォーカリストのsuisさんのコンビによるバンド「ヨルシカ」。なぜその組み合わせが生まれたのか?

 小川洋子さん6年ぶりの長編小説『サイレントシンガー』にn-bunaさんが触発を受けて実現した異色対談の話題は、やがてバンドの誕生秘話にまで及んでいった。

声の物質性と神秘性

小川 私は人間の声にとても興味があって、『サイレントシンガー』を書こうと思ったのも、声の力に惹かれて、歌う人をどうしても書きたかったからなんです。ヨルシカのアルバム『エルマ』に「声」という曲がありますね。「どうしたって触れない どうやっても姿を見せない/簡単に忘れるくせに もうちょっとだけ覚えていたい/この歌の在り処を」という歌詞、これはまさに私が書きたかったことの本質です。声は触れない、でも肉体なんですよね。

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ヨルシカ『エルマ』

n-buna 『エルマ』は、旅する青年から送られてきた手紙に触発されたエルマという人物が、その旅先を辿りながら日記帳に詞を書き留めていく、というコンセプトで作りました。エルマにとっては、「声」という存在は神様なんです。

 ただ、僕自身は声というものに神秘性も感じつつ、物理現象として捉えている節があります。音楽を作っていると、データとして音の波形が見えるので、空気の振動の回数という、単純な物理現象に立ち帰らされるんです。

 でも、ただ空気が振動しているだけなのに、なぜこんなにもヴァリエーション豊かに美しく聴こえるんだろうということを突き詰めていくと、今度は逆に神秘性を帯びてくるんですよ。

小川 ああ、面白いですね。

 この小説を読んでくださるときに、リリカの声はどんな声か、想像は浮かびましたか?

 

n-buna すごく素朴な声なんだろうと想像しました。

小川 何にでも応用可能というか?