8歳の少女を養子にしたと思いきや、実年齢は22歳。さらに凶器を持っておどしてくる養女に嫌気が刺したある夫婦は、彼女をアメリカに置いて、カナダに逃げることに成功する。ところが、それが理由で2人は警察に追われることに……。この事件はいかなる顛末を迎えたのか? 実際に起きた事件などを題材とした映画の元ネタを解説する文庫新刊『映画になった恐怖の実話Ⅲ』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする(全2回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty

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育児放棄の容疑で元養父母を逮捕

 ここまでの話だけでも映画を凌ぐ展開だが、実際はまだ続きがある。バーネット夫妻はカナダに移住した後も、ナタリアが住むアパートの家賃や社会保障番号、福利厚生についてしっかりと援助していた。しかし、2013年末頃から突然、ナタリアと音信不通となり、心配した夫妻がアパートを訪ねても、もぬけの殻。全く状況がわからぬまま、それから6年が過ぎた2019年、バーネット夫妻のもとに警察が訪れる。育児放棄の容疑で逮捕状が出ていたのだ。

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 ちなみに、夫妻は2014年に離婚しており、このとき別々に暮らしていたが、ナタリアの扶養義務は2人にあるとみなされた。

 どういうことなのか。事の発端は2016年、ナタリアがアントウォンとシンシアのマンズ夫妻に引き取られたことにある。彼らはすでに3人の養子を育てていたが、ナタリアを養子とするにあたり、彼女が未成年であるという法的判断を欲していた。そこで、独自に調査したところ、ナタリアが以前、バーネット夫妻から捨てられた事実を把握。マンズ夫妻はその詳細を知るにつけ、バーネット夫妻が映画「エスター」に影響され、何らかの手段で合法的にナタリアの年齢を22歳に引き上げたものと信じ、裁判所に訴えたのだ。

 が、バーネット夫妻が逮捕された直接の原因は別にあり、2014年にナタリアが警察へ出向き「養父母が自分を置いてカナダへ行ってしまった」と訴えたことが引き金だった。こうして身柄を拘束された2人は、それぞれ5000ドル強の保釈金を支払い、釈放される。

 その後、裁判所による再鑑定で改めてナタリアが外見だけ幼く見える小人症であることが確認され、マイケルとクリスティンの起訴は見送りとなった。このとき、マイケルはメディアの取材に対し、「子供のふりをした“サイコパス”であるナタリアと過ごしたあの悪夢の2年間を決して水に流すことはできない」と憤ったそうだ。