身長90センチ、8歳の美少女を養子にした夫婦。ところがこの少女、ウクライナで生まれ育ったはずなのに母国語は話せない。その代わりに英語がペラペラと何かがおかしい……。のちにわかった衝撃の事実とは? 実際に起きた事件などを題材とした映画の元ネタを解説する文庫新刊『映画になった恐怖の実話Ⅲ』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)

写真は映画『エスター』でエスターを演じたイザベル・ファーマン。世の中には同作のような事件がホントウにあった…  ©getty

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 本書は実際に起きた事件や事故を題材にした映画の元ネタを紐解いていく1冊だ。一方、映画に触発されて凶悪な事件が起きる場合もある。「タクシードライバー」(1976)のトラヴィス(演:ロバート・デ・ニーロ)に影響された韓国人学生が32人を殺害した2007年発生の米バージニア工科大学銃乱射事件、映画「ジョーカー」(2019)の主人公の格好を真似た24歳の男が電車の乗客を無差別に襲った2021年の京王線刺傷事件などが典型例で、ある意味、映画は人を狂気に走らせる魔物とも言える。

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 が、本項で取り上げるのは、そんな単純な概念では理解できない怖い実話だ。養子として引き取られた美少女が巻き起こす惨劇を描いた2009年のホラー映画「エスター」。その内容は現実でとても模倣できるものではないが、不思議なことに、公開翌年の2010年にアメリカで、映画に酷似した事件が発覚したのだ。

 最初に映画のあらすじを簡単に紹介しておこう。かつて3人目の子供を流産した女性が心の傷を癒やすため、夫と孤児院を訪ね、エスターという9歳の少女を養子として引き取る。当初は新しい家族に溶け込み、2人の義理の兄妹とも仲良く暮らしていたが、しだいに異常な一面を見せ始める。教えられたばかりのピアノを完璧に弾いたり、両親の性行為を見ても平気な顔をしていたり。挙げ句に、義兄が傷つけた鳩を握り殺し、家に訪ねてきた孤児院のシスターを銃殺するなど凶悪さを発揮していく。果たして、エスターは下垂体機能低下症による成長ホルモン異常を原因とした発育不全のため外見が幼いだけで、実際には33歳で、これまで7人を殺害してエストニアの精神病院に入院させられていたモンスターだった──。

 フィクションだからこそ書けるストーリーだが、似たような出来事が実際に起きていたのだから現実世界は恐ろしい。

8歳の美少女を養子にしたと思いきや…

 米インディアナ州在住のマイケル・バーネットとクリスティンの夫妻が、ウクライナの孤児院に預けられていた8歳の美少女ナタリア・グレースを養子として引き取ったのは2010年4月のこと。彼らにはすでに3人の実子がいたが、さらに家族が増えることは待望の喜びだった。

 しかし、一緒に暮らし始めてまもなく、夫妻はナタリアに違和感を覚える。ウクライナで生まれ育ったはずなのに母国語は話せない代わりに英語がペラペラ。8歳とは思えない大人びた考え方や言動。さらに、陰毛が生えており定期的に生理も来た。さすがにおかしいと感じた夫妻が、かかりつけの病院でナタリアの骨密度やメンタルヘルスチェックを行ったところ、少なくとも年齢が14歳以上であることが発覚。夫妻はショックを受けるも、そのままナタリアを娘として育て続ける。

 これが大きな間違いだった。