日産の新社長に就任したイヴァン・エスピノーサ氏(46)。若きメキシコ出身の社長は、どのように存亡の危機に立たされている日産を救うのか。ジャーナリストの井上久男氏が探った。

◆◆◆

前経営陣の否定から始めた

 5月13日、横浜市にある日産本社でエスピノーサ氏は、記者懇談会に出席した。巨額赤字と同時に経営再建策「Re:NISSAN」を発表した直後だ。筆者も出席したが、その主な内容は次の通りだった。

 (1)世界に17ある完成車工場のうち7工場を閉鎖、生産能力を350万台から250万台に削減、(2)全社員の15%に当たる2万人の削減、(3)5000億円のコスト削減、(4)車の骨格となるプラットフォーム数を13から7に削減、(5)サプライチェーンの見直し。

ADVERTISEMENT

 こうしたリストラを進めて27年3月期に黒字化を目指すという。工場閉鎖について、国内では追浜工場(横須賀市)や子会社の日産車体湘南工場(平塚市)が候補に挙がっているとされる。

 エスピノーサ氏は力説した。

エスピノーサ新社長は経営のスピードアップを重視する Ⓒ文藝春秋

「前経営陣が決めたことをすべて洗い直した。Faster(より早く)とMore(より多く)が再建策のキーワードになる」

 今年3月末まで社長だった内田誠氏(58)は昨年11月に経営再建計画を発表したが、その内容は中途半端だった。人員の削減は9000人、生産能力が350万台規模(24年度の生産実績は310万台)でも利益が出せるように、4000億円のコストを削減。これに対してエスピノーサ氏が掲げる「Re:NISSAN」は、前計画からかなり上積している。「大きな痛みを伴うことはやりたくてやるわけではない。しかし、これが我が社を救う唯一の方法」とエスピノーサ氏はスピード経営をかなり意識している。

 新体制で開発部門を束ねるCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)に就いた赤石永一執行役は「前任者時代から変えようとしていることはスピード感。話す内容は厳しいものが多いが、用意周到に資料が準備されていなくても、エスピノーサ社長とは日常的に直接話すことを心掛けている」と語る。