「球団をもし選べたとしたら……」

 ドラフトのときは「自分の運の強さを試す」と言ったような気がします。でも、職業としてプロ野球選手になれるところまで来ていて好きな会社を選べないなんて、「そんなことあっていいの?」と思っていました。サッカーはプロになろうと思ったら好きなチームを選べるのに野球はダメなんですから、なんだか複雑な心境でした。

 プロには行けるだろうけど、どこのチームかわからないというモヤモヤがあって、正直、僕の中でのドラフトは「期待」という言葉は当てはまりませんでしたね。行きたいところを選べないという失望……選べる人間はいたのかもしれませんけど、それはほんの一握りだったでしょうし。

 もし選べるとしたらジャイアンツだったと思います。あとは高校の3年間、横浜で育ててもらったという意識はありましたから、ベイスターズへ行くのもスムーズな流れなんだろうなと思っていました。ベイスターズのスカウトの方が早い時期から見に来てくれていたのも知っていましたし、それはベイスターズに対するいい印象につながっていました。

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もし選べるなら、ジャイアンツがよかったと松坂は話す ©文藝春秋

 だから選ぶとしたらジャイアンツかベイスターズのどちらかだったと思います。後から聞きましたが、ジャイアンツからは2位でどうだという話が監督のところに届いたそうです。

 ジャイアンツの1位は逆指名制度で大学生の上原(浩治)さんに決まっていましたから……でも僕は2位でもジャイアンツなら嬉しかったと思います。当時は僕、ジャイアンツが好きでした。ジャイアンツへ行ったら桑田(真澄)さんと一緒にプレーできると思っていましたし、清原(和博)さんもいましたからね。

 じつは僕、当時の上原さんがどれだけすごいピッチャーなのか、わかっていなかったんです。大学ナンバーワンとは聞いていましたが、関東の大学なら小中高のどこかの先輩がいるとか何かしらのつながりがありますけど、上原さんは関西の大学(大阪体育大)でしたからね。

 大学ジャパンにも選ばれていましたが、僕は見たことなかったし……単純な高校生の考えることですから上原さんには許してほしいんですけど(笑)、当時はドラフト候補の中で自分より速い球を投げる人なんていないじゃん、と思っていました。

 スピードのナンバーワン=実力ナンバーワンでないことはわかってましたから、上原さんより上とか、そういうつもりはありませんでしたが、勘違いも含めて、大学生を含めても僕が一番だと思っていたのかもしれません……あれ? でも、ということは上原さんより上だと思ってたってことになるのかな(笑)

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