再び活躍するために「本当はやりたくなかったこと」にも挑んだ

 それがキャンプに入ってすぐ、肩にイヤな痛みが出たり、右手の親指と薬指にマメができて思うような調整ができませんでした。オープン戦では寒い中で投げたりして、巡り合わせもよくなかったと思います。インフルエンザにもかかりましたが、それが調整遅れの理由だったとは思いません。

 むしろ、久しぶりに日本へ戻ったことで気を遣ってしまったところがあったと思います。もっと自分本位でやればよかったのかもしれませんが、それができない質なんです。言われたことをやらなきゃと思ってしまったり、肩に痛みが出てもすぐに言えなかったりと、いろんなことが重なりました。

ホークスを選んだ理由は、何より「言葉の力」だったと振り返る ©文藝春秋

 二軍でしたが、5月(20日、高知)にウエスタンのバファローズ戦で投げたのが、ホークスのユニフォームを着て投げた最初の公式戦でした。2回を投げて1点取られたのかな(6回から2番手として32球、被安打2、失点1)。あの日は試合前、走るときに腕を振るだけでも肩が痛くて、めっちゃ、しんどかったんです。

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 でも普通に投げているように見せることはできる。たぶん、僕は痛みに鈍感なほうなんです。我慢しながらでも振れる範囲で腕を振ってしまう。感覚的には腕が振れていないのに振れないなりになんとか抑えちゃうんです。

 で、翌日にまったく肩が回らない……その直後、右肩の関節の後ろにベネット(骨こつ棘きよく)が見つかります。手術せずに痛みを和らげるトレーニングもあるけど、これは内視鏡で削ったほうがいいと診断されました。

 ピッチャーにとって、ヒジにメスを入れるのと肩にメスを入れるのとでは事の重大さがまったく違います。肩は手術をしたからといって完治するとは限らないし、だから本当は肩にだけはメスを入れたくなかった。

 でも治療やトレーニングをして肩の状態が元に戻るのを待つのか、リスクを覚悟して早めに手術を受けるのか、どちらが早く投げられるのかを比較するしかありませんでした。

 内視鏡とはいえ、手術を受ければ半年は投げられなくなる。でも、結果的にはそのほうが早く戻ってこられるかもしれないし、長く投げられるかもしれない。MRIやCTを撮って再検査もしましたし、いろんな人に相談もしました。結果、僕なりに手術を受けたほうが早く戻れるという判断をして、決断しました。

 8月(18日)に手術を受けて、すぐにリハビリを始めました。内視鏡とはいえ切っているので肩に違和感はありましたが、術後1カ月で筋力は戻って、3カ月でボールを投げ始めます。当然、開幕から投げるつもりで、ホークスの2年目を迎えました。

松坂大輔 怪物秘録

石田 雄太

文藝春秋

2025年7月25日 発売

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