歌舞伎の名門に生まれながら、女性であるがゆえに歌舞伎役者になれないという理不尽に長年悩み続けてきた女優・寺島しのぶ(52)。映画『国宝』で血筋やしきたりを重んじる梨園の母・幸子を好演し、注目を集めている。
「女は歌舞伎役者になれない」寺島を名女優に育てた“挫折感”
寺島は1972年、七代目尾上菊五郎(当時は四代目尾上菊之助)と女優・富司純子(当時は藤純子)の長女として生まれた。幼い頃から舞台に立っていたが、その裏には深い葛藤があったという。
「尾上家に長子として生まれたのに、女性であるがゆえに歌舞伎の道を歩むことができないという理不尽にしのぶさんはずっと悩んでいました。5歳下の弟・八代目尾上菊五郎さんが歌舞伎役者としてのキャリアを歩み始めてから、その挫折感はより顕著なものになっていたと思います」(松竹関係者)
それでも天性の役者としての才能が内に留まることはなかった。1992年、寺島は父親の親友で女優の太地喜和子に勧められ、演劇界を牽引する劇団「文学座」の門を自ら叩いた。
「初対面だった太地さんに『あなた、寂しそうね。女優やったらいいじゃない』と言われ、寺島さんは思わず涙したそうです。文学座の看板女優だった杉村春子さんの背中を見て稽古に励み、1996年に退団した後も蜷川幸雄さんら大物が手掛ける舞台に数多く出演。20代前半にして、舞台上で鬼気迫る迫力を発揮するようになりました」(演劇誌編集者)
寺島の女優としての転機は2003年。映画『赤目四十八瀧心中未遂』で初主演を務めると、翌年の日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞した。しかしこの役への出演を巡っては、母・富司純子との“大喧嘩”も生まれていた。

