完全に気分は立浪監督

 その後は、時折、沿道の観衆の方々から、ありがたい声援をもらえた。

「立浪さん! 頑張って!」
「応援してたわよ」
「あら、立浪さん、ファイト!」

 ミドル~シニア世代の女性を中心に(立浪への)声援をいただき、だんだんと気分が高揚していくのが分かった。声援をもらうというのは、やはり力になるな、と実感できた。

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 だが、いくら声援をもらっても、日ごろの運動不足の身体にはやはり限界があり、15kmを過ぎたあたり、ゴールまで残り5kmを切ってからは、息苦しさと脚の痛みで、走るというよりは、早歩き程度のペースになっていた。

 そんな立浪(私)の脇を後続のランナーは続々と追い抜いていったが、一人、追い抜きざまに立浪(私)に声をかけていったランナーがいた。

根尾「監督! 頑張って!」
立浪「おお、根尾……、すまんな、活躍させてやれなくて……」

 声をかけてくれたのは、昨年までの背番号7の根尾ユニフォーム姿の40~50代と思しき女性であった。しかし、レースも最終盤のこの時には、相当な疲労と「監督」と呼ばれた高揚感が相まって、もう心の底から根尾のことを思う言葉が自然と出てくるようになっていた。走り去る根尾の姿を見て、私は本気でそう思えたのであった。

 これはもうお手軽なライフハックなんてもんじゃない、内面からプロ野球選手の気持ちになることができる、一種のトリップのようなものだ。貴重な体験をさせてもらった。ありがとう、根尾(のユニフォームを着た女性ランナー)。

完走記念タオルと着用したユニフォーム ©滝河 あきら

次のシーズンに備えて

 市民マラソンのシーズンは秋から冬にかけてである。きっと次のシーズンには、私はまた、ユニフォーム姿で市民マラソン大会を走ることだろう。

 次は、監督を辞めた直後だった前回とは違った声援をいただけるのではないだろうか。今度はどんな気持ちになれるのだろうか。期待は膨らむばかりだ。

 そして、今からマラソンシーズンに向けて私は身体を鍛えておこうと思う。もっとカッコよく走る立浪の姿を見せられるように。あと、少し不躾な声援に対して、走りながらでもしっかりとこう言えるようにしておこうと思う。

「立浪『さん』でしょ!」

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