※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2025」に届いた原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。
【出場者プロフィール】滝河 あきら 中日ドラゴンズ
大島洋平・堂上剛裕・山内壮馬世代の内氣な40歳。名古屋市(近郊)出身、名古屋市在住。既婚、二児の父。人生百年時代に不惑の歳を迎え、「人生折り返しって感じ?」とよく聞かれるが、すでに最終コーナーから最後の直線に入ってきた感覚がしている。好きな選手は神野純一。
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「おお、根尾……、すまんな、活躍させてやれなくて……」
走り去る根尾の姿を見て、私は本気でそう思えたのであった。
プロ野球選手のような声援を受けてみたい
ファンの大声援を一身に受けてグラウンドに立つプロ野球選手。その姿を見ては、ふと思う。「自分の人生の中で、こんな声援を受けることなんてないんだろうな」と。別に自分を卑下するわけではない。プロ野球選手のように大声援をもらえる人物なんて、この世界ではほんの一握り。私を含めた大多数の人間は、大声援には縁のない人生を送っているのだ。
しかし、無理なことだとはわかっていても、ちょっとだけでもいいからプロ野球選手のように声援を受けてみたい、という願望が時折、頭をよぎる。そんな日々を過ごす中で、私のようなアラフォーのサラリーマンでも、声援を受けてプロ野球選手の気分を味わえるのではないかという手段を思いついた。それは、「プロ野球選手のユニフォームを着て、市民マラソン大会に出場する」という方法であった。
市民マラソン大会に出場し、Tシャツやランニングウェアを着て走る人がほとんどの中、プロ野球選手のユニフォームを着ていれば、周りのランナーや沿道の観衆に「あ! 〇〇選手だ!」という感じで声をかけてもらえるのではないか。うまくいけば「〇〇選手がんばれ!」とまるでプロ野球選手のような声援をいただけるのではないか。
ただの思いつきライフハックに、根拠のない勝算を持ちつつ、さっそく出場できそうな市民マラソン大会を物色し、エントリーすることにした。
手軽にプロ野球選手気分が味わえるライフハックを市民マラソンで実践
2025年2月23日、愛知県犬山市。この日、犬山では10,000人規模の市民マラソン大会が開催された。私はこの大会のハーフマラソンの部にエントリーしており、当日、意気揚々と現地に向かった。もちろん、先ほど紹介した「手軽にプロ野球選手気分が味わえるライフハック」を実践する為である。
ちなみに、今回用意したユニフォームは、前年までドラゴンズで監督をしていた立浪和義のレプリカユニフォームだ。監督時代の背番号73、「TATSUNAMI」の背ネーム入り。他の現役選手のユニフォームにするか悩んだが、このユニフォームを選んだ理由は2つ。1つは自分が少年野球をやっていた30年前からのファンだったこと。もう1つは、成績が振るわず、志半ばで監督を退任した立浪監督ではあったが、温かな声援を送ってくれる人たちもいるのではないかという淡い期待をしたからである。
なお、この市民マラソン大会、正式な名称は「第44回 読売犬山ハーフマラソン」であった。読売の名を冠する大会で立浪への声援はもらえるのか。スタートのときは迫っていた。
スタート直後から声援を受ける
午前10時ごろ、スタートの号砲が鳴り、大勢のランナーたちとともに、立浪ユニフォーム姿の私もスタートした。陸上競技の経験があるわけでもない、ただのおっさんランナーである私は、ハーフマラソンを走り切れるかどうか、そこまで自信のない状態であったが、苦しくなったらきっと(立浪への)声援が力になるはずだと思って走り始めた。
スタートして2kmほど、周りのハイペースに煽られて、すでに息が上がり始めていた矢先、沿道の少年たちが私を指さしながら、声をあげた。
少年たち「あ! 立浪だ!」
私「たっ…なっ…さっ…で…」(立浪『さん』でしょ!)
もう息が上がって、さん付けをしてほしいことを少年たちにはうまく伝えられなかった。なんとも不躾な声の掛けられ方だったが、自分に(立浪に)注目してもらえて、なんとなしに嬉しい気持ちになった。
そこからしばらく経った7km地点あたりで、前方に野球のユニフォーム姿のランナーを発見した。青いユニフォームだったのでチームメイトかと思ったが、よく見ると、「WATARAI 4」のユニフォーム、ベイスターズの度会だった。
立浪的には、ドラフトでクジを外してしまった選手である度会に「元気か? よう頑張ってるな」と一声かけてあげたいと思ったので、数十m先にいる度会に追いつこうと息も絶え絶えペースを上げようとしたが、さすが元気者の度会、どんどんペースが上がり、見えなくなっていってしまった。「ドラフトのくじと同じように、ここでも縁がなかったのかな」と、追いつくのを諦めたのであった。

