関根さんの訓練を見守るのは、鑑識課課長代理の赤坂一彦警視だ。全国で2人しかいない警察庁の「指定広域技能指導官」で、警察犬と警察犬係員の育成指導を行ってきたスペシャリストである。「初めて組む警察犬に『尊敬する大好きな人』『この人に褒められたい』と思ってもらうことが大切」と語る。
ニケ号の性格は「人見知り」で「甘えん坊」。「1日空くと忘れられちゃうから」と、関根さんは休みの日も様子を見に訓練所に顔を出した。訓練やボール遊び、ブラッシングなどの世話も熱心に行い、褒めながらじっくり関係を深めていく。
「訓練して褒めて、遊んで褒めて。私はたくさん話しかけちゃうタイプで、ニケに繰り返し話しかけながら過ごしました」(関根さん)
熱心に向き合う関根さんに、人見知りのニケ号も徐々に気を許し、「特別な存在」として見てくれるようになった。1カ月ほどで関根さんとニケ号は訓練の課題をクリアし、現場に出動する機会を得た。
「ニケは慣れてきたのか甘えん坊な一面も見せてくれるようになりました。ほかの人や警察犬がいても、ずっと私だけに反応するんです。現場にはまだ数回しか行っていませんが、そのときはニケの闘志がメラメラしているように感じます。行くぞ行くぞ、って」
関根さんを信頼し、引っ張っていくニケ号の頼もしい姿が浮かんでくる。赤坂さんの指導のもとで訓練の課題に向き合う新たなバディは、大きな一歩を踏み出したところだ。
厳しく接するのではなく「褒める」訓練へ
「この人嫌いだな、怖いな、訓練つまんないなって犬が思ってしまったら、そこから立ち直るのは至難の業なんです」
20年以上警察犬に関わってきた赤坂さんはしみじみ語る。そこには昔の失敗事例があった。
「私が警察犬係になったころは、どちらかというと厳しい訓練が主流でした。良い警察犬を育てるために、難しい内容を厳しく教えていたのです。そんなある日、現場に出動して捜索の指示をしたところ、犬が一歩も動かなくなってしまった。私の前に出なくなっちゃったんです。現場で間違えると叱られる、怖い、面白くない。だからもうやらない、と」


